2022/04/23

折れたタワー(1)


 日本文教出版5年教材「折れたタワー」について考えていきます。

 まず、内容項目を見てみましょう。本教材の内容は「相互理解、寛容」です(なお、低学年には該当項目はありません)。


(1)【自分の考えや意見を相手に伝える】

 本内容には、全ての発達段階に共通して「自分の考えや意見を相手に伝える」という記載があります。他者のことを理解するには、まず自分の思いを伝えること(自己開示)が大切であるということを示しています。教材の中のぼく(ひろし)は、自分の思いをきちんと伝えられていたのか。その視点が授業づくりのポイントの一つになると考えられます。実際にぼくの思いを伝えてみるという体験(役割演技)も効果的になるでしょう。


(2)【広い心の矢印の向き】

 それぞれの学年の内容は以下のようになります。

(以下、学習指導要領解説より一部抜粋)

『中学年』

 「(前略)相手のことを理解し、自分と異なる意見も大切にすること。」

『高学年』

 「(前略)謙虚な心をもち、広い心で自分と異なる意見や立場を尊重すること。」

『中学校』

 「(前略)それぞれの個性や立場を尊重し、いろいろなものの見方や考え方があることを理解し、寛容の心をもって謙虚に他に学び、自らを高めていくこと。」

(以上)

 どの発達段階も「自分と異なる他者を理解する」ことに重きが置かれています(その「他者を理解する」ということを「広い心」と表現することもあります)。

 では、何のために他者を理解する必要があるのでしょう。ここで大事にしておきたいポイントは、「他者の考え方を知ることで、自分の世界が広がる(見方や考え方が豊かになる)」ということを自覚させるということです。補助発問として、「なぜ、相手の思いを理解しようとする必要があるの?」と尋ねてみてもおもしろいかもしれませんね。

 道徳科の目的は、簡単にまとめると「他者や教材を鏡として自分を映し出すことで、自分の経験や考え方をふり返り、生き方を考えること」になります。本教材では、作品を壊してしまったひろしを許すかどうかに注目してしまいがちですが、大事なことは他者(のりお)の思いを理解しようとするぼく(ひろし)の心が豊かになっていることに気づかせることになります。「広い心」の矢印は、自分(ぼく)に向くことを自覚させることをねらいとすべきなのです。


《参考引用文献》

『道徳科「深い学び」のための内容項目ハンドブック』(2020,日本文教出版)

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