2021/08/10

いじりといじめ(1)

20210810 

小学校4年生「いじりといじめ」(日本文教出版)


【公正,公平,社会正義】

 前回に続けて、内容項目C「公正,公平,社会正義」の教材について考えていきます。

この内容項目のキーワードは、『集団』です。「集団の中の一人として」「よりよい集団(社会)の実現に向けて」ということを意識させることが重要となります。そうすることで、現実社会での差別や偏見の解消につながっていくからです。


【いじりといじめ】

 今回は4年生教材「いじりといじめ」について考えていきます。教材文は教科書で確認ください。

 さて、題名を見て、本文を読む。この作業だけで、この教材で教えるべきことが理解できたような気がしてきます。「いじりはいじめにつながるから、いけないよ」ということです。分かりやすい内容ですので、授業もきっと上手くいくはずですよね・・・、なんて言うことはできません。実は、この教材にはいくつもの落とし穴があるからです。


【落とし穴①「いじめ」の認識】

 題名に「いじめ」という言葉が出てきますが、他教科も含めて、教材名に「いじめ」という言葉を直接扱っている教材はあまり多くありません。実は、子ども達は「いじめ」というものについて系統的に学びを積み上げてきていないのです。これが、落とし穴の一つ目です。「いじりはいじめにつながる」ということを考えさせたとしても、その先の「いじめ」というものの理解が曖昧であれば、自ずと学びも曖昧になってしまいます。 

 それゆえ、この教材で授業をする際には、「いじめ」というものについての事前学習をすることをおすすめします。「いじめ」に対しての認識を学級全体で深めることができていれば、この教材での学びも深められることができるしょう。


【絵本での学び】

 では、どのようにして「いじめ」についての理解を深めていきましょうか。日々の指導や声かけも重要となりますが、私は「絵本の読み聞かせ」をおすすめします。担任が絵本を読み聞かせてあげてほしいのです。

 例えば『わたしのいもうと』(松谷みよ子 文・味戸ケイコ 絵)という絵本があります。内容はお伝えできませんが、その絵本のあとがきに書かれていることを紹介します。

(以下、あとがきから一部抜粋)

 数年前、一通の手紙がきた。

 わたしのいもうとの話を聞いてください、という手紙であった。いじめにあい、登校を拒否し、心を閉ざしてしまった子。最後の、『わたしをいじめたひとたちは、もうわたしをわすれてしまったでしょうね』という言葉まできたとき、わたしはこみあげてくるものをとどめることができなかった。

(以上)


 また、『名前をうばわれた なかまたち』(タシウス 作・横湯園子 訳)という絵本もあります。こちらもあとがきの一部を紹介します。

(以下、あとがきから一部抜粋)

 なんと多くの子ども、青年がいじめという暴力にあっていることでしょう。心の傷はそうかんたんに癒えるものではありません。いかなる暴力も許されてよいはずがなく、タシエスの「いじめを根絶しなければなりません」という気持ちは、まさに私の気持ちでもありました。

(以上)


 これらの絵本を子ども達に読み聞かせ、感想を伝え合う。絵本には大きな力があります。ただこれだけの活動で子ども達の心がゆさぶられるはずです。「いじめ」について自分たちで理解を深めようしていきます。このような事前指導を行った上で、この教材の学習に入ると、授業の始まりから子ども達の意識は異なることでしょう(もちろん、絵本以外の事前指導でも大丈夫です)。このことは、道徳科の授業が道徳教育の「補充・深化・統合」の役割であるということにもつながります。

0 件のコメント: