2021/08/14

いじりといじめ(4)

小学校4年生「いじりといじめ」④(日本文教出版)

【道徳科授業の流れ】

 一般的な道徳科教材の流れは、

①中心人物がある出来事(葛藤)と出会う。

②補助人物の言葉や行動にふれる。

③道徳的価値のよさに気づく。

④よりよい自分に変容する。

という流れで構成されています。中心人物に自分を重ね、その人物になりきって考えさせることで、道徳的価値のよさを実感させることをねらいます。

 このような流れの教材が多いので、物語の始まりから順序通り丁寧に押さえていくことで、迷うことなく授業のねらいに向かうことができます。ただし、近年はそのような授業は「教師がレールを敷いている」「自由な思考が許されない」と批判されてしまうこともあります


【モヤモヤ】

 さて、「いじりといじめ」をみてみると、この一般的な構成とは異なっていることに気づきます。大きな違いは、「中心人物の変容が描かれていない」ということです。中心人物(ゆうき)は、げんきの行動が「いじり」なのか「いじめ」なのかを悩みながら、「まさるくんは本当はどんな気持ちだったのかな。」と、つぶやく場面で終わります。前述の一般的な流れでいうと、②の場面で教材文が終わります。子ども達も、モヤモヤとした気分のまま読み終えることでしょう。しかし、このモヤモヤに価値があります。

 このモヤモヤの原因を問うと、様々な発言が予想されます。げんきへの怒り、まさるへの心配、ゆうきへの励まし、みかへの称賛。「このままだったら・・・」という未来思考。「ぼくの経験を聞いてほしい」という自己語り。

 どれに教師が焦点を当てるかによって、授業の展開が異なります。主題やねらいは同じでも、様々な展開が可能なのです。指導案の中で複数の展開を用意し、「◯◯という発言があったときは、〜と問い返すことで、・・・に気づかせる」と記載してもいでしょう。

 

【未来を任せる】

 さて、このつぶやきの後、ゆうきはどのような行動をとったのでしょうか。誰に、どのようなことを伝えたのでしょうか。物語の未来は学級の子ども達に任されているのです。一般的な教材の流れであれば、ゆうきが「いじりをやめよう」とげんきに伝えて終わるかもしれません。しかし、現実の教室を想像したとき、その一言を発言するのにどれだけの勇気が必要なのでしょう。「私は発言できません」という子がいてもおかしくはありません。そのような人間的な弱さも受け入れたうえで、これから大切にしたい「心」について考えさせていきます。

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