2021/08/29

役割演技をやってみる(2)

役割演技をやってみる(2)

【役割演技の魅力】

 これまでの道徳授業では小学校低学年の授業で役割演技を見かけることが多くありました。かわいいお面をかぶり、緊張しながら演技をしている様子を先生方がにこやかに眺めている。子ども達は「ぼくも!わたしも!」と演者に立候補し、演じることを楽しんでいる。なんともにこやかな光景です。

 しかし、この演技は本当に子ども達の「深い学び」につながっていたのでしょうか。役割演技という活動は、即興的・自発的に演じさせることで他者への共感や自分自身(道徳的価値)についての気づきを深めさせることをねらいます。演技の上手さを見合ったり、たくさんの子どもに演じる経験をさせることを目的とするものでは決してありません。

 では、どのような役割演技を求めていく必要があるのでしょうか。ここで、ある児童の感想を紹介します。5年生で中心人物を演じた際の感想です。

(以下、感想)

 私は(中略)最後の場面を演じた。演じてみた時の心が今も残っている。とても苦しかったし、焦りもした。主人公もたぶん、心が苦しくなったと思った。自分と主人公が一体化の人間になった気持ちだった。その上、こんなに苦しくなったのは今までなかったし、地面にひびが入って足場をなくしている状態みたいだった。非常にわかりやすかった

(以上)

 この児童は、授業の中でよりよい道徳的行為について真剣に考え、発言していました。その発言を教師が見取り、演者に指名しました。「やりたい人?」と演者を募集をしたわけではありません。

 演じることを通して、この児童は「道徳的行為の難しさ」を実感しました。その上で、その行為の大切を見つめ直し、どのように発言・行動をすればよいかを深く考えようとしました

 その様子を見ていた観客役の児童も、自分たちが発言していたことと現実(演技)とのずれ(違和感)を感じ、演技を観ることを通して改めて自分ごととして道徳的価値について考え始めました。

 このような「実感」や「違和感」を感じられる役割演技こそ、道徳科授業における「効果的な手法」であるといえるのではないでしょうか。決して演技をさせることが目的ではなく、演技することでどのようなことを感じさせたいのか。どのような発言や葛藤を引き出したいか。そのようなことを考えさせる役割演技が求められていると言えます。

 また、この児童の感想から分かることがもう一つあります。それは、役割演技は決して低学年のみに向いている手法ではないということです。言葉として自己の思考を表現できる高学年や中学生にこそ、演じることを通して「発する言葉」と「内面の思考」とのずれ(違和感)を感じさせることができ、その違和感から改めて道徳的価値の理解を考えさせることができます。それゆえ、実は高学年や中学生にこそおすすめしたい手法なのです。

 もちろん、「さあ、演技をしましょう」というような指示では、きっと恥ずかしさを感じてしまい演じることに抵抗を感じてしまうことでしょう。発言を通して生徒自らの視点を自覚させ、自然と演じることに導いていく。そのような配慮(手立て)はもちろん必要となります(このことについては、また後日お伝えします)。


(参考図書)

R・J・コルシニ 2004 心理療法に生かす ロールプレイング・マニュアル 金子書房

早川裕隆  2017 実感的に理解を深める!体験的な学習「役割演技」でつくる道徳授業 明治図書


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