自分を物語る授業(3)〜その思いを受けついで〜
【感動を生む】
映画や小説を読んでいて涙がこぼれる時があります。多彩な情景描写や思いがけない展開が登場人物への感情移入を生み、その喜びを祝福したり悲しみに共感したりすることで、思いがけずに涙が止まらなくなります。(最近では「ライオンのおやつ」という小説で私は涙が止まらなくなりました。おすすめです!)
さて、この「涙が止まらなくなる」という現象を「感動」と呼ぶことにします。この「感動」の瞬間を、道徳科授業の中で起こすことはできないのでしょうか。このことについて、本日は授業実践を通して述べたいと思います。
【6年生 その思いを受けついで】
6年生に「その思いを受けついで」(日文)という教材があります。内容項目は「D生命の尊さ」です。
(以下、あらすじ)
大好きなおじいちゃんが入院してしまい、ぼくは毎日お見舞いにいきます。そのおじいちゃんが亡くなった際、枕元からしわくちゃののし袋が見つかります。そこには、ふるえて力のないじいちゃんの字で、「お誕生日おめでとう。これからもずっと見守っているよ」と書かれていました。ぼくの誕生日は一ヶ月も先でした。そののしぶくろから、じいちゃんの温かな、そして強い思いが胸いっぱいに押し寄せてきました。
(以上)
【授業の様子】
実際の授業では、導入の時間をなくしました。授業開始とともに範読を始めました。導入で授業の方向性を示さなくても、この教材のメッセージは確実に子ども達に届くと感じたからです。この教材の世界観を軽いものにしたくないと思ったのです。
ただし、教材からのメッセージをより深く自分ごととして感じられるように、授業前(前日)に布石をうちました。絵本「ひまわりのおか」を読み聞かせしたことです。
この絵本には、震災で愛する我が子を失った母親達の思いが綴られています。読み聞かせ後、「みんなも、とっても愛されているのですよ」という思いを担任の口から伝えました。「ぼくのこと、愛してる?」と、帰ってから尋ねてみてほしいということも伝えました。「私は愛されている」という実感をもって授業に臨んでもらいたかったためです。
さて、範読後はペアトーク。短い時間(実際の授業では2分間)ですが、まずは「伝えたい」という気持ちを自由に表出させました。また、記憶の中に「心の蓋」が置かれている子にとっては、その蓋に気づくための時間としました。
ペアトークを終え、発言を促しました。一人目の子は、
『おじいちゃんが大地のために用意したのし袋は、いつも見舞いに来てくれていた大地に「ありがとう」という感謝を伝えるためと、おじいちゃんが大地にしていたように、「これからも家族を大切にしてね」という気持ちが込められていると思いました。』
と発言しました。これは、いわゆる「本時のねらい」に近づく発言でした。子ども達は、教材を読むだけで教材の意図(メッセージ)を確かに受け取っていたのです。
45分間かけてこの発言を引き出すために、導入・基本発問・中心発問という流れの授業を構想することは可能です。しかし、本授業ではこの発言を「自己のふり返り」のきっかけとしました。ここから、『物語り』を引き出そうと考えたのです。
この発言に対して、誰からも異論はありませんでした。すると、二人目の子が口を開きました。一言目が『ちょっと長くなりますが・・・』というものでした。
この言葉には、
◯ちょっと長くなるけれど、聞いてほしいです。
◯問われてはいないけれど、今伝えたいことがあります。話をしてもいいですか。
◯話そうかどうか悩んだけれど、どうしても伝えたいという気持ちが溢れてきます。
という思いが込められていたのだと思います。私は「どうぞ」と伝え、ここから『自分語り』が始まりまりました。
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