小学校4年生「いじりといじめ」③(日本文教出版)
【落とし穴③ 困っている人は誰?】
「いじりといじめ」も3回目となりました。本日も、この教材を理解するうえでの「落とし穴」(3つ目)を紹介します。今回の落とし穴は、「困っている人は誰?」ということです。
道徳科の授業は、中心人物の心情に寄り添いながら学習を進めることが一般的です。この授業でも、中心人物である「ゆうき」の葛藤に寄り添い、自分ごととして捉えさせていく授業が多いと思います。
しかし、教材を読んでいるとある疑問が浮かんできます。それは「困っている人は誰だろう」ということです。中心人物(ゆうき)だけが困っているのでしょうか。いいえ、他にも困っている人物がたくさん登場しています。少し整理をしてみましょう。
《ゆうき(中心人物)》
目の前の行為が「いじり」か「いじめ」かで悩んでいる。自分もまさるを笑ってきたことを思い出し、自己の行動をふり返っている。
《まさる》
間違いを笑われて困っている。「気にしていない」と決めつけられている。
《みか》
いじりに対して不快感を示しているが、自分の思いが周りの子に伝わらない。少数の立場の意見を聞いてもらえず、モヤモヤしている。
《げんき》
まさるに対して「いじり」をしているが、その理不尽さに気づいておらず、まさるを傷つけてしまっている。このままでいいのか、げんき!
《学級のみんな》
げんきの「いじり」に対して、深く考えずに笑っている。
いかがでしょうか。実は、まさるに対しての「いじり」が、学級全体(集団)の大きな問題になっていることに気づくことができます。
また、児童それぞれが、この登場人物の中の誰の視点で教材の世界に入っているかで、児童の感じている困り感や解決策も異なってきます。様々な意見を交流させ、大切なことに気づかせていく。まさに、多面的・多角的に考えさせることのできる教材なのです。
【集団の意識】
ここまでのことをまとめます。内容項目C「公正,公平,社会正義」では、「集団」に意識を向けさせることがポイントとなります。差別や偏見などの行為が周りの人に与える影響についても考えさせることで、集団の中の全員の問題であると気づかせます。なぜなら、いじめ問題をはじめとする差別や偏見、決めつけを解消するには集団(社会)への働きかけが重要になるからです。
この教材でも、いじりが常態化している学級の居心地の悪さを想像させることで、児童一人一人がどのようなことができるかを考えさせることができます。
【落とし穴に気づかせる】
これまでに3つの落とし穴を紹介してきました。この落とし穴に気づかせないことも可能です。しかし、それでは「道徳科の授業は考える意義のないもの」というメッセージを送っていることになってしまう恐れがあります。だからこそ、道徳科授業の中で、あえて落とし穴につまづかせてみましょう。病気になった時に健康のありがたさを感じられることと同じように、道徳的価値に対しての認識不足に気づくことが、学びの主体性を生むきっかけの一つになるからです。そのために必要なものは、様々な意見が出てくることを楽しもうと思える教師の覚悟、それだけです。
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