小学校5年生(日文)の教科書に「これって不公平?」という教材があります(内容項目は「公正、公平、社会正義」)。4つの事例をもとに公平・不公平について対話させ、何が問題なのかを考えさせることをねらっています。
本教材は『ユニセフの開発のための教育』を参考にして作られています(指導書研究編に記載)。『ユニセフの開発のための教育』とは、子供たちが地球市民としての考え方や態度を体験的に身につけることを目指している教育プログラムであり、「相互依存」「イメージと認識」「変革と未来」「対立とその解決」「社会正義」という5つのグローバルコンセプトで体系づけられています(詳細はユニセフのHPで確認ください)。
さて、教科書の4つの事例を見てみると、そのうちの3つは「これはおかしい!」と判断しやすい事例になっています。それぞれが「女性」「障害のある人」「いじめ」を扱った事例であり、そのおかしさ(差別・偏見)について子供たちも考えやすいでしょう。
しかし、残り一つの事例は、子供たちの頭に「?」が浮かぶかもしれません。
(以下、教科書本文より)
給食のカレーを、クラス全員で同じ量ずつ分けることになりました。アヤカはカレーが好きではないので、少しにしてほしいと思っています。一方、ユウヤは、おなかがすいていたので、「え!これだけ?」と言っています。
(以上)
いかがでしょうか。教室でもよく見られる給食時間の光景です。これは、公平なのでしょうか。不公平なのでしょうか。子供たちに尋ねても意見が分かれるでしょう。大人の立場から考えると「我慢しなさい」と感じるかもしれませんね。この事例を扱う意図はどこにあるのでしょうか。
ここで大事にしたい視点は「対立を引き起こしているものは何かを考える」ということになるのではないかと考えます。中学校の学習指導要領解説の中に、「公平、公正、社会正義」について以下のような記載があります。
(以下、抜粋)
指導に当たっては、まず、自己中心的な考え方から脱却して、公のことと自分のこととの関わりや社会の中における自分の立場に目を向け、社会をよりよくしていこうとする気持ちを大切にする必要がある。
(以上)
注目してほしいのは、「自己中心的な考え方から脱却」という部分です。本教材なら、給食の多い・少ないは「私」のことであり、その自己中心的な考えを見つめることが求められているのではないでしょうか。この教材は小学校5年生ですので、その上位学年である中学校の学習指導要領も参考にすることで、本教材のねらいが見えてくるのです。
さて、自分が「不公平だ」と感じる心は、「私」の心でしょうか。「公」の心でしょうか。「女の子だから」と仲間に入れてもらえない子のさみしさは、「私」でしょうか。「公」でしょうか。どちらも不公平だと感じるかもしれませんが、その思いは同じものなのでしょうか。そのようなことに思いを巡らせたいものです。
実際の授業づくりにおいて、例えば教材の4つの場面カードを学級人数分(または半数分)作成することは可能でしょうか(タブレット端末等を活用することも考えられます)。そして、ペアやミニグループで実際に「公平」が「不公平」かを分けさせます。「一斉授業」という認識を崩し、グループやペアでのアクティビティを取り入れるのです。おそらく、グループごとで分け方が異なってきます。その『ずれ』を生かして対話を生み出すのです。必要に応じてユニセフのプログラムから事例を紹介すると、より内容を深められるかもしれません。
ユニセフの指導プログラムを見てみると、『「公平」「不公平」どちらかに決められないカードはあったかどうか、またその理由を書き出す』というアクティビティがあります。ねらいが「判断力」を育てる授業なので、「公平」か「不公平」かを判断させる活動はとても大事です。しかし、みんなで話し合って「決める」ことが目的ではなく、その判断理由についての対話をうながすということを忘れてはいけないでしょう。
年間35回の授業を9年間、毎時間同じ展開の授業をするのではなく、教材や学習内容に合わせて展開や活動方法を工夫することを私は提案をします。授業の型に教材や子供たちを合わせるのではなく、教材や子供たちの実態に授業を合わせる。その意識を持ってみてはどうでしょうか。
《参考引用文》
『「ユニセフの開発のための教育」地球市民を育てるための実践ガイドブック』
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