令和3年度の全国道徳教育研究大会 鹿児島大会の研究冊子を拝読しました。どの研究校の報告も大変勉強になるものばかりでしたが、その中の高知県の小学校の研究報告に大変魅力を感じました。5年間の継続した研究の報告なのですが、教材「絵葉書と切手」の授業分析を中心に研究がされていました。長期間、一つの教材に焦点を当ててPDCAを繰り返すという、学校としての努力と熱意、そして研究内容の焦点化という手法に敬意をいだきました。
さて、その小学校での研究について、中心発問や授業構成の変遷を紹介します。
(以下、研究冊子の報告をもとに筆者作成)
報告を読み進めると、研究を始めた頃は二項対立による対話により活発な発言が見られましたが、そこからの価値理解の深まりには至らなかったことが分かります。どちらが正しいのかという思考に陥りやすかったり、自分の意見に固執してしまう児童も多かったようです。
そこで、内容項目「友情、信頼」の理解を先生方がさらに深めようとされました。そこから導き出されたことが、「相手のことを信頼しているからこそ伝えることができることに気づかせ、相手のことを思うだけでなく信頼することのよさを感じられる」授業を設計することの大切さでした。
また、事前アンケートを通して、児童は仲よくしたり助け合ったりすることの根底にある「相手への理解や信頼」についてはまだ考えが及んでいないことも分かりました。
教師自身の価値理解の深まりと児童理解をもとに、まさに中学年の「友情、信頼」の内容である「友達と互いに理解し、信頼し、助け合うこと」を理解させるための授業構成を導き出されたようです。
日本文教出版の「道徳科『深い学び』のための内容項目ハンドブック」には、中学年の「友情、信頼」のポイントとして、「友達との関係は双方向であり、相手が自分の気持ちを大切にしてくれるのは、自分が相手の気持ちをどれだけ大切にしているか、相手が信頼してくれるのは、自分がどれだけ相手を信頼しているか次第なのです」と書かれています。本研究の令和2年度の授業は、まさに「自分がどれだけ相手を信頼しているか」に焦点を当てる授業になっているように感じました。
さて、本研究のすばらしいところは、仮説をもとに様々な授業構成に積極的に取り組まれたところだと私は思っています。従来の授業構成に捉われず、今後もこのような研究が全国各地で生まれることを期待しています。
《参考引用文献》
『第57回全国小学校道徳教育県大会鹿児島大会 研究冊子』(2021)
島恒生『道徳科「深い学び」のための内容項目ハンドブック』(日本文教出版,2020)
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