2021/12/11

日本学術会議 審議報告書(3)


 2020年の学術会議審議報告書についての感想を述べてきました。「哲学」の視点から現状の道徳科授業を批判的・反省的に論じている本報告書を、ぜひ多くの先生方に一読していただきたいと思っています。

 最後に、前述と重なるところもありますが、その報告の中で特に気づきの多かった論を紹介します。

(以下、報告書P8より抜粋)

道徳の問題を「心の問題」にしてしまう傾向は、専門用語で「心理主義化」と呼ばれる。「心理主義化」とは、本来は政治的・社会的・経済的な問題を個人の心の問題にすり替えてしまう操作を指す。例えば、障害者が権利として主張すべきところが、その声を聞くのではなく、健常者の「思いやり」へと問題がすり替えられてしまうといったことである。

(以上)

 このことについて、一定の特徴(泳げない)を持つ子どもがアクセスできない遊び場を設定し、そこに「親切」で連れていくという、障害の社会モデルの発想のまるでない教材として「およげないりすさん」を批判しています。

 また、教材「かぼちゃのつる」についても報告の中で批判しています。

(以下、抜粋)

教科書には「かぼちゃのつる」のような「わがまま」を批判する教材がある。しかし、他者のわがままを批判する者もやはりわがままであり、わがままな行動や態度を取らざるを得ないほど一部の人だけに有利であるような、わがままな規則が社会を支配しているのかもしれない。わがままな態度は、この社会制度によって不利に立たされている者の必死の講義かもしれない

(以上)

 本報告書では、道徳教育の数ある問題の一つが「教師自身が暗黙のうちに身につけた道徳的価値について、学問上、かならず生じているはずの批判や異論について知ることなしに児童生徒を教育すること」としています(P19)。私達教師は、価値観の似た者同士で仕事をしている集団です。その集団のなかで「善い」とされている価値観が、本当に広く「善い」とされる価値観なのでしょうか。まずは自分たちの価値観を批判的・反省的に問うてみる必要があるということです。同様に、教材分析の際にも指導書等に書かれている価値理解を疑ってみることが大変重要であるといえるでしょう。

 最後に、道徳科授業をおこなう教師に必要な素質として、報告書では以下のように述べています。

(以下、P17より抜粋)

教師は、道徳科の教材を通して、暗黙の生活指導や生徒管理を行うのではなく、子どもと一緒に考え議論することで学級経営を行う側面がなければならない。逆に言えば、道徳科教育を担当する教師が、道徳的に他の人々よりも優れている必要もない。教師に求められているのは、議論と思考という探求を導く民主的なリーダーシップである。

(以上)

 道徳科授業に関わる者の一人として、この呼びかけをしっかりと意識しておきたいと思いました。


《参考引用文献》

日本学術会議 哲学委員会 哲学・倫理・宗教教育分科会報告『道徳科において「考え、議論する」教育を推進するために』(2020年6月)

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