2021/08/07

二わのことり(3)

 教材研究 小学校1年生「二わのことり」〜発達段階を考慮して〜(3)


【学びを深める手立て】

 「二わのことり」の授業づくりについて考えてきました。三回目となる今回は、「学びを深めるための手立て」について考えてみます。よい授業は「手立て」の連続で成り立つからです。


【手立て① 役割演技を通して深める】

 役割演技を通して「仲よしっていいな」という道徳的心情を深めていきます。道徳的心情とは、「善を心地よく思う心情」という認識とします。この授業の場合、「善」とは「さみしさを感じているやまがらのもとへ飛んでいく行為」であり、「心地よく思う」は、「やまがらのうれしそうな様子を見て、自分もうれしく思う」という心情になります。

 低学年は結果に目がいきやすい発達段階なので、やまがらの家に行った場面を演技させることで、「自分もうれしくなった」ということを実感させます。その際、「なぜかな?」と尋ねても、明確は解は出てこないかもしれません。心地よさを上手に表現できる語彙や思考の整理手段を1年生は持ち合わせてはいないからです。

 さて、役割演技では「演者の選定」が重要となります。1年生ですから、教師が「演技したい人?」と尋ねたら、きっとたくさんの挙手があるでしょう。しかし、「元気がいいから」などの理由で決めるのは大変もったいないです。では、どのような基準で演者を決めたらいいのでしょうか。

 おすすめは、児童の発言(視点)を見取ることで演者を選定するということです。例えば、ここまでの場面でみそさざいに自我関与し、葛藤や決意を自分ごとのように考え発言している児童をみそさざい役に選定します。また、やまがらのさみしさや喜びに共感している児童をやまがら役とします。そうすることで、役割演技の世界と児童が生きる現実世界がつながり、演技を通して感じたことがリアルなものとなります。それを見ている観客役の児童も、演者=人物として観ることができます。


【手立て② 補助発問を通して深める】

 補助発問を通して、新たな視点や立場を子ども達に与えます。そうすることで、「えっ!そんなこと考えていなかった。どういうことだろう」という思考が起こります。

(補助発問の例)

みそさざいは、仕方なくやまがらの家に行ったのだね(誕生日だからいったんだね)。

→「友だちだから」「助けたいから」という意見を引き出すことをねらいます 。

②もし、やまがらの家に行っていなかったら、みそさざいはどんな気持ちになったかな。

→よりよい行動ができなかった場合の未来を想像させることで、道徳的行為のよさに気づかせます。

③どんな誕生日会になったかな?

→みそさざいのとった行動のよさを実感させます。正解はありませんので、児童それぞれの理想を想像させることで、「仲良しであること」のよさをみんなで味わいます。


【手立て③ ふり返りを通して深める】

 学習の終わり(終末の活動)で「ふり返り」の時間をとります。その際に、「みそさざいのようなうれしさをみんなも感じたことはありますか」と発問してみてはどうでしょうか。教材の余韻を残しつつ、自分ごととして生活をふり返る。その瞬間、これまでの行動や友達との関わりが脳の中で紡がれていきます。モヤモヤとしていた生活体験に道徳的な価値が生まれる瞬間です。「そういえば、あの時・・・。」と、発言を始める子もいるでしょう。言葉として出てくるかどうかが重要ではなく、この「過去が紡がれる」という時間が大切なのです。

 ただし、「ふり返り」の場面を充実させるためには、やはりそれまでの場面での心の揺れや気づき、共感から生まれる感情の充実が必要となります。そうすることで、ふり返りでの「自己の物語り」が起こり、学びが深まるのです。

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