2022/04/17

問い方のマジック


 「あれか」「これか」という考え方から、「あれも」「これも」という考え方への転換(物事には多様な見方があり、さまざまな意見の交換からさらに新たな会話が展開していくことを望ましいとする考え方)。「リフレクティング・プロセス」におけるトム・アンデルセン(2015)の考え方を先日紹介しました(2022年4月16日)。

 「あれか」「これか」を二項対立として考えた際、苫野一徳(2014)の『問い方のマジック』という考え方も知っておきたいところです。苫野は、二項対立的な問いの立て方を『問い方のマジック』と呼び、「あちらとこちら、どちらが正しいのか?」と問われると、わたしたちは思わず、「どちらかが正しいのではないか」と思ってしまう傾向があるとしています。

 二項対立的な問いの立て方は、道徳科授業でもよく見かけます。子供たちの発言も活発になり、一見すると大変効果的な手立てに見えます。確かに、4月の、まだ考えたり議論したりすることに不慣れな学級では価値ある手立てだといえます。しかし、そのような授業を重ねていくと、これは私の経験則なのですが、自分たちの正しさを主張し、相手の正しさを批判する傾向が生まれてしまいます。これでは本来道徳科授業で目指したい「対話」と大きく目的が異なってしまいます

 さて、二項対立的な「問いのマジック」について、苫野はグレーゾーンの存在を紹介しています。二項対立の中に存在するグレーゾーンに着目させ、そこにある視点を整理したり融合させたりすることで、新たな思考や枠組みを生み出すことができるということです。対立しそうなものを調和的に考え、お互いを補い合う視点を生み出し、新たな価値を創造していく。このような思考過程が重要であると論じています。

 『問い方のマジック』に惑わされることのないよう、「グレーゾーンに着目する」という視点を道徳科授業での経験を通して子供たちに身につけさせてあげたいものです。


《引用参考文献》

トム・アンデルセン著 鈴木浩二監訳『リフレクティングプロセス 会話における会話と会話』(金剛出版、2015)

苫野一徳『教育の力』(2014,講談社)

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