2021/11/28

価値観を広げる道徳授業づくり(4)


 「多面的・多角的に考える」ということは、多様な意見を引き出せばよいということなのでしょうか。この問いに対して髙宮氏はこのように述べています。

(以下、著書より抜粋)

「多面的・多角的」は、たんに「多様」に考えることと同じではありません。「対話的な学び」で、児童生徒みんなの意見をそのまま受け入れるだけでは、道徳的価値の理解は深まりません。

(以上)

 近年、「多面的・多角的」や「対話的」という言葉が広がり、道徳科授業にも変化が見られるようになりました。しかし、その結果、「ただ意見を発表しているだけ」という授業も多く生まれています。活発な話し合いこそ見られますが、「今日はたくさん発表できましたね。どれも大切な考えだと先生は思います」という終わり方をするような授業です。その授業に、本当に学び(道徳性の拡大)はあったのでしょうか。

 髙宮氏は、たんに横並びの「多様性」を認めるのではなく、肯定と否定の両面を考えたり、理想と現実について条件を変えて考えたりすることが大事であり、そこに『深い学び』がある」とも述べています。このことを、アラン・ブルームの「無関心の寛大(openness)の増大」という考え方を使って説明をしています。多様性を認めることは一見よいことに思えますが、しかし、それは一人ひとりはまったく他人に対して閉じている状態であり、他人に対して無関心になってしまう場合もあるいうことです。

 以前に、心理療法である「オープンダイアローグ」における「対話」について述べました。研究の背景によって「対話」という言葉のもつ意味は大きく異なると感じています。私たち授業者は、「対話」という活動の意義を明確にしていく必要があります。近年、多くの学校の研究テーマに「対話を通して」という文言が含まれています。その「対話」とは、いったいどのような状態のことをいうのでしょうか。一度考えてみるべきでしょう。その答えの指針となるものが、今回紹介している髙宮氏の著書にあるように思っています。


髙宮正貴『価値観を広げる道徳授業づくり 教材の価値分析で発問力を高める』(北大路書房,2020)

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