2021/11/19

中学校2年生「小さな工場の大きな仕事」


 中学校2年生教材「小さな工場の大きな仕事」(日文)について考えます。

 内容項目はc「勤労」。中学2年生は進路や職業について考え始める時期ですので、子供たちにとって大変重要な内容項目になるのではないでしょうか。

 さて、「働く」という言葉についてアンケートをすると、おそらく「収入」や「安定した生活」という項目が上位に入るでしょう。大人に尋ねても同じような回答になります。

 しかし、「働く目的を『収入』や『安定した生活』などと考えさせてはいけない。お金が大事ではなく、コツコツと働くことが大事なのだ」という意見や、「子供に大きな夢を考えさせ、理想を語らせるべきだ」という意見も聞こえてくることはないでしょうか。

 これらの声をどのように受け止めるべきか。そこに明確な答えはありません。コツコツ働くことも大事ですし、夢を語らせることも素敵です。もちろん、安定した収入も生きていくために必要です。

 では、道徳科授業で何を考えさせたらよいのか。それは「学習指導要領解説」を読むことで見えてきます。「勤労」の内容は「勤労の尊さや意義を理解し、将来の生き方について考えを深め、勤労を通じて社会に貢献すること」となっています。ここで着目したいのは、「勤労を通じて社会貢献すること」という文言です。

 道徳科の授業(中学校)では、「社会貢献」がキーワードになっています。これは、「収入と社会貢献のどちらが大事か」という選択をさせるということではありません。「収入」も大事。「夢」も大事。そのうえで、「社会貢献」についても考えさせるという認識が大事になるのではないでしょうか。

 本教材「小さな工場の大きな仕事」では、ぼくの家族が経営する「町工場」と、職場体験で訪問する「ゲーム会社」が出てきます。これを「ゲーム会社を否定して町工場を肯定させる」という扱い方をしてしまうと、子供たちの心には道徳科授業への不信感が残ってしまうのではないかと危惧します。

 考えさせたいことは「社会貢献」についてです。そうであれば、両社の社会貢献を理解させるべきだと考えます。華やかなイメージのあるゲーム会社の社会貢献は生徒にとって考えやすいものだと思います。しかし、町工場の社会貢献は想像しづらい。そこで、僕の視点で町工場の仕事の社会的意義を考えさせることが学習活動になります。その際に、僕の両社に対する思いを対比させることで学習内容を明確にさせることは効果的ですが、優劣をつけるような捉え方は控えるほうがいいでしょう。

 この活動を通しての気づきが、生徒が獲得した本時の「見方・考え方」になります。しかし、そこで終えてしまうと、学びの深まり、いわゆる「人間の生き方について考える」までには至りません。町工場の社会的意義という「見方・考え方」をもとに、自分の将来の夢や職業の社会的意義(貢献)について考えを広げさせることで、本内容項目のねらいに迫ることができると言えます。そう考えると、終末の場面では、「あなたの将来就きたい職業で、どのような社会貢献をしたいか?」と直接的に問うことはなくても、ワークシートの中で生徒の熱い思いが表出されることを期待したいところです。

 「勤労」は総合的な学習の時間やキャリア教育とも深く関連する内容項目です。『補充・深化・統合』という道徳科授業の位置づけも意識しながら、この授業で何を考えさせたいのかを明確にすることを大切にしてほしいと思います。

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