2021/11/16

6年生「手品師」(3)


 この教材を扱う際、私は手品師の「夢」についても考えさせてみてはどうかと思っています。手品師の夢は、大きな舞台で華やかに手品をすることでした。しかし、一人の少年と出会い、本当の夢は手品を通して人を喜ばせたいということだと気づきました。

 そう考えると、「手品師は少年との約束を守った」や「自分の夢を捨てた」という捉え方は、手品師の誠実さに対しての理解が浅いと言えないでしょうか。手品師は自分の夢を見つめ直すことにより、自分が大切にしたい生き方を思い描くことができたのです。

 私たち教師も、目の前の一人の子供のためにもがき続ける日々を過ごしています。たくさんの人の称賛を求めるのではなく、目の前の子の成長を望みます。きっと、手品師の決断に共感できるところがあるのではないでしょうか。

 さて、「手品師」という教材を扱う授業の多くは、このどちらかの展開になることが多いようです。

(1)電話の場面(友人からの誘い)で問う。すると、どちらに行くかの葛藤が生まれ、二項対立的な授業になる。

(2)最後の場面(少年の前で手品)で問う。すると、手品師の決断に対して批判的・分析的な授業になる。

 多くの授業では、このどちらかになります。いわゆる「中心発問」もこの場面を取り上げることが多いのでしょう。

 ここで、この教材を使う意義と道徳科授業の目標について改めて考えてみます。道徳科授業では、「自己を見つめる」「自分の生き方を考える」ということを大事にします。ですから、「手品師」という教材を通して子供たちが自分の生き方を考えるという活動があるべきなのです。直接「あなたはどうですか?」と尋ねることはなくても、手品師の葛藤や決断に疑問を抱いたり共感したりすることを通して、自分自身が大事にしたいことを考えさせることが求められます。

 このことから、「手品師はどのような生き方をしたいと思っているのか」という発問をしてみるのはどうかと提案をします。手品師の行動の奥にある「心」に目を向けさせ、生き方に共感させるのです。その時の対話を通して、児童自身が大事にしたいことにも自然と目を向けられるのではないでしょうか。

 手品師の生き方を綺麗事だと感じる人もいるでしょう。現実的ではないと批判する人もいるかもしれません。しかし、身の回りの尊敬している人を思い浮かべてみると、おそらくその方々は身近な人を大事にしている人ではないでしょうか。他人から「できないよ」「それは理想だよ」と言われていることをやり遂げている人ではないでしょうか。

 「誠実さ」を追い求めている手品師は、あなたの身近にいる人かもしれませんね。そう考えると、この教材がとても身近なものと感じられないでしょうか。

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