2021/10/07

自己を見つめる(2)


 道徳科の目標の中で「自己を見つめる」という学習活動が重視されています。以下、学習指導要領解説の記述を抜粋します。

(前略)自己を見つめるとは、自分との関わり、つまりこれまでの自分の経験やそのときの感じ方、考え方と照らし合わせながら、更に考えを深めることである。このような学習を通して、児童一人一人は、道徳的価値の理解と同時に自己理解を深めることになる。また、児童自ら道徳性を養う中で、自らを振り返って成長を実感したり、これからの課題や目標を見付けたりすることができるようになる。

 道徳科の指導においては、児童が道徳的価値を基に自己を見つめることができるような学習を通して、道徳性を養うことの意義について、児童自らが考え、理解できるようにすることが大切である。

 以上の学習指導要領解説の記述から自己を見つめるための手立てについて考えます。


【自らの経験と照らして考える】

 「自己を見つめる」とは、「これまでの自分の経験やそのときの感じ方、考え方と照らして考えること」だとあります。例えるならば、「内容項目についての深い理解」を虫眼鏡として、その虫眼鏡で自分の中にある道徳性を観察するようなものでしょうか。

「分かった!正直とは、〜ということなんだ。」

「その『正直についての理解』で考えると、あの時の私は正直だった。でも、○○さんとケンカした時は正直になれなかった。なんでだろう。」

「私は、〜のような場面では正直になれないのかもしれないな。」

「そうだとしたら、私に必要なのは、どんな心だろう。」

「内容項目についての深い理解」という虫眼鏡を使って自己内対話を促し、これからの課題や目標を見付けようとする。このようなことが「自己を見つめる」という学習活動になるのだと思います。

 では、それを実現させるための手立てとして、どのような発問や展開、手法が考えられるでしょうか。一般的な例として、登場人物に自我関与して道徳的諸価値について考えさせることが思い浮かびます。「登場人物=自分」とすることで、人物の言動を通して自己を見つめさせることもできるからです。「問題解決的な学習」や「役割演技」なども効果的でしょう。


【あなただったら?】

 また、自分の経験を想起させるために、「もしも、あなただったら?」と問うことも考えられます。この「あなたなら発問」に対しては賛否両論ありますが、ここで大変興味深い論を一つ紹介したいと思います。

 四天王寺大学教授の杉中康平氏は、明治図書の月刊誌『道徳教育』(2021年8月号)の中で、『「もしも、あなただったら?」はOKか、NGか?』という質問に対して「一概に言えない」という回答を示しています。その理由として、

『例えば、答えが一つではない道徳的な課題を、子ども達が「批判的な吟味」を通して自分自身の課題として考えを深める場合、「自分ならどうするか?」は避けて通れない問いだと言えるだろう。「臓器提供」のような課題である。あるいは、モラルジレンマの授業の場合は、そもそもが、「行為の選択」とその根拠となる理由として、「自分なら?」が問われる。こうしたオープンエンドの授業に対して、「二通の手紙」のようなクローズドエンドの授業においては、安易に「自分なら?」を論じさせ、ディベートのような授業をして、「遵法精神」は学べるのか、はなはな疑問である。

と論じています。

 教材や学習内容に応じて可否が分かれるという意見となりますが、ここで確認しておきたいことは、必ずしも「もしも、あなただったら?」という発問がNGというわけではないということです。

 また、学習展開によっては、教師があえて発問をしなくても子供たちは自然と「もし自分だったら」と思考している場合も多いということも理解しておきたいところです。


【成長を実感したり、課題や目標を見付けさせる】

 このことに関しては学習指導要領解説の中でいくつかの手立てが提示されています。

・自らの生活や考えを見つめるための具体的な振り返り活動を工夫する。

・授業開始時と終了時における考えの変容が分かるような活動を工夫する。

・主体的かつ効果的な学び方を児童自らが考えることができるような工夫をする。

・年度当初に自分の有様やこれからの自らの課題や目標を捉えるための学習を行う。

・望ましい自分の在り方を求めて、それまでの学習や自分自身を適宜振り返る。


【道徳性を養うことの意義について考えさせる】

 なぜ、道徳科の授業は必要とされているのか。その理由を子供自身が納得できてこそ日々の授業が意味のあるものとなります。そのようなことを考える機会がないことこそ、道徳科授業が形骸化してしまう要因ではないでしょうか。教師自身が道徳科授業の意義を信じる。子供たちも納得する。まずは、そのための時間を用意してほしいと思います。


(引用参考文献)

『道徳教育』2021年8月号(明治図書)


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