愛知学泉大学教授 前田治氏の著書『道徳を図解する』から、道徳科授業で大切にしたいことを考えていきます。前田氏は、「はじめに」で以下のことを記載しています。
(以下、抜粋)
生徒は成長過程にある不完全な人間である。そして、教師もまた不完全な人間である。生徒を不完全な縦糸とすると教師は不完全な横糸である。道徳の授業では、そんな不完全な縦糸と横糸で一枚の布を織っていく。決してきれいな布にはならない。しかし、その布には、生徒と教師が一緒になって追求した結果が織り込まれている。・・・そんな道徳の授業が好きである。
(以上)
「教師は不完全な縦糸である」、この認識に共感します。成長過程にある教師が、成長過程にある児童生徒と追求していくものが道徳科授業です。私も、そのような道徳科授業に大きな魅力を感じています。そして、その魅力が多くの皆様に届けることを自らの役割と意識しているところです。
さて、前田氏は著書の中で「多面的・多角的」について解説をしています。「・」の表記が「即かず離れず」(不即不離)の関係を表していることから、多面的と多角的は分けて考えるのではなく一体のものとして捉えるのがよいという認識を前提としつつ、独自に定義した多面的と多角的についての具体例を挙げてみます。
例えば、Aさんがいじめられて泣いているという場面において、従来型の授業では「主人公はどんな気持ちでしょう?」という発問になります。それに対して、「多面的に考える」と「多角的に考える」の違いを、以下のように説明しています。
【多面的に考える】
Aさんがいじめられているという道徳的な問題場面について、さまざまな立場から考えていきます。この場合、他者を理解することにつながっていきます。
①主人公は何を考えているでしょう?
②Aさんの母親は何を考えているでしょう?
③周りの子は何を考えているでしょう?
④いじめている子は何を考えているでしょう?
【多角的に考える】
いじめられているという道徳的な問題場面について、自分がとりうる行為をさまざまな角度から考えさせます。そして、そう判断した理由を問うことで、共通しているのは相手を思う気持ちであることに気付かせます。
①主人公はどんな関わりができるでしょう?
「助ける」「声をかけない、見守る」「先生や友達に言う」など
「多面的・多角的に考える」という文言について、新学習指導要領告示の時から様々な論争が重ねられてきました。絶対的な決まりはありませんが、私は「様々な立場や価値観をもとに思考する習慣を身につけさせる」ことが重要なのだと思っています。
学習指導要領においても『特定の価値観の押し付けにならないよう、学年段階に応じて、道徳科における主体的かつ効果的な学び方を児童自らが考えることができるような工夫をすることが大切である。』という記載がありますが、多面的・多角的な思考の習慣を身につけさせていくことが、自らで問いを立て、主体的に学ぼうとできる児童生徒を育むきっかけになると考えています。
(引用参考文献)
前田治『道徳を図解する』(大学教育出版,2020)