役割演技をやってみる(6)
【補助自我の選定】
道徳教材には、心情を大きく変容させる「中心人物」が描かれています。また、その中心人物に変容のきっかけを与える人物も出てきます。後者の人物のことを役割演技の場では「補助自我」と呼びます(心理劇の世界では「アシスタント」とも呼ばれるようです)。よりよい道徳性を持ち合わせ、中心人物の道徳性を引き上げる役割を与えられている場合が多いのが特徴です。
役割演技を実施する際、この「中心人物」と「補助自我」の演者を決める必要があります。両者のうち、特に「補助自我」の選定が重要となります。例えば、その人物の視点に立って思考していることや、発言の中から道徳的価値のよさを強く自覚できていることを選定基準の一つとします。そうすることで、中心人物を演じている児童生徒の道徳性を引き上げたり新たな気付きを与えたりすることができるのです。
なお、補助自我の演者にとっても、役割演技は大きな効果があるとされています。問題を抱える人(演者)と対面し、自ら助けようとして他者の問題にかかわっていくことで、その問題が自分にとっての現実となるからです。
【観客の役割】
「他者によって演じられたロールプレイングは、観客にとっても役に立つ」。このことを役割演技の創始者であるモレノは『観客療法』と呼んでいます。なぜなら、演じられる問題はすべての人に当てはまる傾向があり、他の人にも共感をもたらすからです。
実際に役割演技に取り組んでみると、実は最も大切な存在は観客役の児童生徒だということに気付きます。観客役の児童への「よく観る」という指導が最も重要になるのです。演者がどのような発言をしたか。どのような表情をしていたか。どこで言葉につまっていたか。自分ならどのように話そうと思うか。演技場面までに観客役の児童生徒も教材の中に入り込み、自分ごととして問題を解決しようとしてきていることにより、「登場人物=演者=観客」という構図が生まれます。そうすることで観客役の児童も自分ごととして演技に参加していることになり、道徳的諸価値への理解が深まるのです。
(参考図書)
R・J・コルシニ 2004 心理療法に生かす ロールプレイング・マニュアル 金子書房
早川裕隆 2017 実感的に理解を深める!体験的な学習「役割演技」でつくる道徳授業 明治図書
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