2021/09/07

役割演技をやってみる(5)

役割演技をやってみる(5)

【演者を決める】

 役割演技を行う際、ポイントとなるのが「演者の選定」です。誰を、どのようにして演者に選定するのか、授業者の明確な意図が必要となります。

 低学年で役割演技をする際、多くの児童が「ぼくがやりたい!」と勢いよく手を上げている姿が見られます。大変微笑ましい光景です。しかし、授業とは「布石の連続」です。演者の選定においても、授業のねらいに合わせていくつもの布石が敷かれるべきなのです。では、その布石とは何なのか。それは、授業中の「発言」や「思考」です。

 その授業で、子ども達は誰の視点で教材の世界に入っているでしょうか。中心人物ですか。それとも、その母親や友人ですか。または、教材の世界に入り込まず、外の世界から俯瞰して読んでいるのでしょうか。児童自身の経験によって、教材への入り方は異なるものです。

 その視点を教師は導入や発問で一つに揃えようとしますが、授業の中で子ども達の視点は本来あるべきところに戻っていくものです。子ども達の発言を注意深く聞いていると、その発言が誰の視点で考えられているかに気づくことができます(一人ひとりの発言を大切にすることにもつながります)。そして、例えば中心人物の視点で物事を考えている児童生徒に、その中心人物を演技させるのです。


【授業者が役を演じるということ】

 中心人物を児童生徒が演じ、その相手役を教師が演じるという光景もよく見かけます。その理由の多くは以下のようなものです。

①子ども同士の演技では価値理解が深まらない。教師が相手役をすることで、的確な問い返しが可能となる。

②反対させたり嫌なことを言わせたりする役を子どもに演じさせることはよくない。

というものです。

 このどちらの理由も大変納得のいくものです。しかし、役割演技の基本的な在り方として「授業者は演技をしない」という考え方があります。授業者は監督役であり、演技の様子を注意深く見守ったり観客役の児童に指導する(参加を促す)という重要な役割があるからです。

 役割演技を通して道徳的諸価値の理解を深めたり、行為のよさや難しさを実感させたりすることをねらいます。そのねらいを達成させるためには、監督役である教師の「見えない配慮」が必須なのです。もし教師が演者になると、演技の世界に入り込むことになります。そうすると、観客役の児童に関わる(変容に気づく)ことができなくなります。また、どうしても教師の求めたい言葉を引き出そうとしてしまい、誘導的な問い返しをしてしまう恐れもあります。これらの理由から、授業者が演技をすることは推奨できないのです(なお、「児童生徒に嫌なことを言わせる」という理由については、そもそもの演技場面を考え直す必要があるかもしれません)。


(参考図書)

R・J・コルシニ 2004 心理療法に生かす ロールプレイング・マニュアル 金子書房

早川裕隆 2017 実感的に理解を深める!体験的な学習「役割演技」でつくる道徳授業 明治図書


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