2022/03/04

手品師の授業づくり


 手品師の行動に対して賛否両論の意見がある。手品師の行動は自己犠牲の精神であり、現代の道徳教育には適さないという指摘もある。果たして本当にそうなのか。手品師の夢は大きな舞台で華やかに手品をすることだったが、一人の少年と出会い、本当の夢は手品を通して人を喜ばせることであることに気づいた。また、偶然出会った少年と過去の自分を重ね合わせ、自分が生きていくうえで大事にしたいことも自覚できた。そう考えると「手品師は少年との約束を守った」や「自分の夢を捨てた」という児童の捉え方は、手品師の誠実さに対しての共感・理解が浅いと言えるかもしれない。本教材は、手品師の誠実さについて多面的に考えさせることで、その価値判断のすがすがしさに共感させるとともに、自分の生き方を考えることができる教材である。

 さて、本教材では、まず2つの展開案が考えられる。 

(1)「友人との電話」の場面で問う。すると、二項対立の葛藤・議論が生まれる。

(2)「少年の前で手品」の場面で問う。すると、手品師の決断への批判・分析が生まれる。

 このどちらにおいても、手品師が手に入れたいもの(大劇場でのステージ)は善か悪かが議論の焦点になりやすい。しかし、手品師の誠実さを考えさせるためには、自らの内面に生まれる「後ろめたさ」に気づかせる必要がある。

 人間は、手に入れたいものは簡単に見ることができるが、失うものに気づくことは困難なものである。手品師は、友人からの電話により、すぐに「手に入れられるもの」を思い浮かべた。しかし、少年の顔を思い浮かべることで、自分が失うかもしれないものに気づくこともできた。それは決して「少年がかわいそう」「約束を守る」というものではなく、生きていくうえで失いたくないものを自覚したのである。自らの生き方の価値基準を見つけたということである。

 そこで、このような中心発問はどうだろう。

(3)「手品師が失いたくなかったものはなにか」

 手品師の思いを自分ごととして考えさせるとともに、児童自身の生き方についても考えを広げさせていく。また、そのためには、手品師にとっての少年の存在を考えさせる必要がある。手品師は少年の中に何を見たのか。少年を喜ばせることは手品師にとってどのような意味があるのか。それらも考えさせることで、価値判断の結果生まれる「後ろめたさ」に気づかせる手立てとしたい。

0 件のコメント: