2022/09/15

社会構成主義と道徳(7)「対立解消のための手立て」


 参考文献の中で、「対立への対処」のための有望な実践の一つとして、「パブリック・カンバセーション」というプロジェクトが紹介されています。以下、そのプロジェクトを参考文献をもとに簡単に紹介します。

考え方の異なるグループを招待します。その際、すぐに議論には入らず、まずは食事を共にします。このとき、自分たちを分断する問題について話すことは許されません。そのため、食事の間の話題は仕事や家庭のことなどになります。たいてい、同じような人間性を持ち合わせているという感覚になるそうです。

ディスカッションが開始されると、それぞれの立場で主義主張を戦わせるのではなく、経験に基づいた個人的な話をするよう進行役が念を押します。参加者の多くは、その問題にまつわる自分が経験した苦痛について語ります。主義主張に基づいた議論は反発を招きますが、このような話であれば、参加者は共感して耳を傾けることができます。その結果、自分とは反対の立場の人間がなぜそう感じるのか、感情面から理解し始めることができるようです。

その後、参加者たちは自分の立場に対して感じている疑念についても話すよう指示されます。ここまでくると参加者は、反対の立場の主張に近い「第2の声」で話し始めるようになります。

このような話し合いの結果、新たな可能性が構成され始める場合もあります。「中絶反対派」対「中絶容認派」の場合を例に挙げると、参加者の間で中絶が選択肢となるような状況を防ぐために協力し合うという合意に達することがあるということです。

 この会話の効果の一つは、対立が段階的に縮小することだとガーゲンは述べています。参加者は立場を変えるよう求められてはいません(立場を変えたりもしません)が、反対側の立場をとる人をより共感を持って理解することができるようになるということです。

 さて、上記のプロジェクトを道徳科授業と置き換えて考えてみます。まず大事になるのは、「同じような人間性を持ち合わせているという感覚」です。これは、日々の生活の中で育むものであり、そして、導入の発問で感じさせられるものではないでしょうか。そうであれば、導入の役割の一つとして、「同じような人間性を感じさせる」という目的も考えられます。

 次に、「経験に基づいた話をする」ということです。主義主張を議論するのではなく、自分が経験した苦痛について語らせるということでした。道徳科授業では教材を使い、登場人物になって様々な問題の世界に入ります。登場人物の感じる苦痛や葛藤を語らせることが、このことに該当すると考えられます。

 そして、自分の立場に対して感じる疑念についても話すということについては、子供たちはそのような疑念に気づきにくいかもしれないので、補助発問や問い返しを通して自分の考え方を見つめさせます

 このように、道徳科授業の基本的な展開は社会構成主義の考え方と非常に親和性が高いと言えるのではないでしょうか。


《引用参考文献》

ケネス・J・ガーゲン、メアリー・ガーゲン著『現実はいつも対話から生まれる 社会構成主義入門』(2018,ディスカバリー・トゥエンティワン)

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