2022/09/10

社会構成主義と道徳(2)「問題」

 心理学者のケネス・ガーゲンの「問題」についての定義が参考になります。ガーゲンは、「問題」はすべての人の目に見えるわけではなく、私たちが「良し」とする世界の構成の実現を妨げるものを「問題」として見ることができる、と述べています。

 『私たちが「良し」とする世界』という言葉が引っかかります。なぜなら、国や地域、宗教や世代によって、「良し」するものが異なるからです。教室の中を見ても、「良し」とするものはそれぞれに異なるはずです。特定の「良し」に導くような行為は、どうしても軋轢を生んでしまうでしょう。

 道徳科の教材を見て、どのような問題が見えてくるかもそれぞれです。同じ事象を見て、「いけない!」と感じる子もいれば「それぐらい、いいと思う」と感じる子もいます。「問題解決的な学習」という手法がありますが、その「問題」を教師の「良し」とする世界を基準に考えさせて(与えてしまって)いないでしょうか。教師の提示する正解を理解させるための道徳科授業では、子供たちは自分ごととして真剣に考えることはできないでしょう。

 一方の「良し」を提唱すると、必ず他方の「良し」があります。「友達と仲良くすることはいいことだ」という「良し」があれば、「一人でいることも認められるべきだ」という「良し」もあります。このように、人によって「良し」とする世界が異なるからこそ、道徳科授業では対話が重要になるのです。


《引用参考文献》

ケネス・J・ガーゲン、メアリー・ガーゲン著『現実はいつも対話から生まれる 社会構成主義入門』(2018,ディスカバリー・トゥエンティワン)

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