2022/07/13

「価値の一般化」を阻害する授業展開


 青木(1983)は、「価値の一般化」を促す授業展開について具体的な発問例を批判的に紹介しています。


(1)「主人公に手紙を書く」という手法について

 価値の一般化の段階において教材中の主人公に手紙を書くという手法がありますが、実際の授業を見る限りほとんど効果はないと青木は述べています。

 手紙を書くことの意図として、現在の自分自身の価値観の自覚に基づいて主人公に語りかけることで自分自身の内省の役割を果たすことができるということをねらいます。しかし、子ども達の書く内容のほとんどは資料中の場面や条件に限定されてしまうので、単なる「生活化」に役立つことはあっても、「価値の一般化」の役割を果たすことは期待できないと青木は述べています。


(2)「主人公から学んだもの」という発問について

 道徳の指導過程の中には、教材を取り扱った後で、価値の一般化を図るために「主人公から学んだものは何か」「この資料で、どんなことを考えたか」といった発問がされる授業もあります。

 青木は、こうした発問に対する子どもの反応の中には、ねらいとする価値の一般化に役立つものも確かに見られるが、学級の中の大多数の子どもの反応は、やはり教材中の特定場面、特定条件に限定された範囲内での考えや感想にとどまってしまうと分析しています。

 例えば、「規則の尊重」の授業の場合、「わがままをしないこと」「自分のことばかり考えないで、相手のことも考える」「人の迷惑になるかどうかよく考える」などが感想として出てきます。しかし、これらの感想は教材を取り扱った後であるため、結論として何をねらいとする道徳科授業だったのかという批判を招くことになると青木は述べています。

 このように、「学んだもの」「考えたこと」といった漠然とした発問は「価値の一般化」を図る工夫とは考えられないのであり、このような発問が有効とされるためには、

自分の過去、現在をかえりみて、ねらいとする価値についての自分の価値観と比較した場合に何を学んだか、何を考えたかを答えるのだということを、子ども達に明確に伝える発問でなければならないとしています。


《参考引用文献》

青木孝頼編著『価値の一般化の発問』(1983,明治図書)

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