役割演技を取り入れた道徳科授業を紹介します。教材は、日本文教出版6年生「ヘレンと共に ーアニー・サリバンー」です。
まずは、実際の授業の展開を紹介します。家庭学習で教材を読んできてからの授業になります。
【発問①】「教材を読んだ感想を隣の人に伝えましょう」(ペアトーク後、発表)
「ヘレンが大学まで行けたのは、アニーとの強い絆があったからだと思いました」
「アニーも同じ経験をしているので、ヘレンのことを分かっているということが伝わってきました。」
「ヘレンは、最初はわがままだったけど、アニーの厳しさの上の優しさのおかげで、できることが増えました。アニーはすごいと思いました」
「くじけずに最後までやり遂げたヘレンがすごいです」
「アニーはすごく心がしっかりとしている人だと思いました。なぜなら、ヘレンに朝食のしつけを長い時間をかけてしっかりと教えてあげたし、周りの人が「教え方が厳しい!」と言っても、あきらめずにやったからです」
「アニーは生まれつき目が不自由で、治療をして目は良くなりました。ヘレンは目と耳と口が不自由で、普通の人はヘレンと接しないかもしれないけれど、アニーはヘレンを最後まで育てていて、ヘレンとの関係がどんどん深くなっていきました」
ここで大切にしたかったことは、子供たちがヘレンの視点で教材の世界に入っているのか、アニーの視点で入っているのかを確認することでした。実際、自由に感想を伝えさせると、教材に入る視点に異なりがあることが分かりました。この「視点の異なり」を役割演技の演者選定に生かします。 |
【発問②】「一生懸命勉強をしている時、アニー・サリバンはどのようなことを思っていましたか」
「自分が助けられて勇気がついたから、目の不自由な人にも勇気をつけてあげたい。」
「自分も助けられたから、恩返しとして他の人を助けてあげたい。」
「大きくなったら、目の不自由な人のために役立ちたい。」
「でも、それなら普通は自分の好きなことをしたくなります。」
『みんなはどう?目が治ったら、自分の好きなことをしようと思うのが、ふつう?』
「目が見えるようになったら、綺麗な景色とかを私なら見たいです。」
『アニーはどう思ったのかな。「勇気をつけたい」や「恩返しをしたい」か、「自分の好きなことをしたい」か、どちらかな。』
「アニー・サリバンは、不自由な人を勇気づけたいと思っていたと思います。けど、僕なら自分のしたいことを選ぶと思います。」
「アニーがしたいことは人の役に立つことなので、どちらも一緒だと思います。」
『人に役立つことや恩返ししたいということが、自分のやりたいことではないかということですね』
教材の前半を範読してからの場面発問です。役割演技を効果的に行うためには、演技の場面までの場面発問などで人物の葛藤や不安、喜びを自分のこととして捉えさせることが必要になります。この場面では、アニーの思いを自分ごととして捉えさせることをねらいました。ある児童から「目が見えるようになったら、ふつうは自分の好きなことをしたくなります」という意見が出たので、その意見に問い返しをすることで、人間の弱さの理解をねらいました。 |
【発問③】「アニーがヘレンの家庭教師を引き受ける時、不安はあったのかな?あったと思う?なかったと思う?パーセントで表すと、どれぐらいかな?」
・不安は全くなかった →2人
・不安しかなかった →7人
・真ん中(50%) →14人
・不安が25% →2人
・不安が75% →4人
『どんな不安があったか。なぜ不安がなかったのか。お隣に伝えましょう。』
「目も耳も口も不自由な人にどう教えたらいいのかわからない不安です」
「勉強してきた手話や点字、読心術が使えないかもしれないという不安です」
「完全にダメになったわけではないと思う」
『なぜ?』
「勉強したことは使えないとしても、自分の考えを役立てることはできるし、勉強は必ず無駄にはなっていないと思います。」
『では、不安がないという人。なんで不安がないのかな?』
「アニーはスプーンを1〜2時間持たせようとできる人なので、それぐらいすごく強い思いを持っているので不安はないと思います。」
「自分がヘレンの家庭教師になると決めたのは、恩返しをしたかったり役立ちたかったりする思いが強いからです」
『はじめてのことでわからないし、不安はあったかもしれない。今まで勉強したことが通じないかもしれない。でも、強い思いを持っているから家庭教師を引き受けたのでしょうね。』
範読を途中で区切っての発問です。アニーの不安と、それを乗り越える強い意思や願いに気づかせることをねらっています。 |
【発問④ 】なぜアニーはここまで厳しくしたのかな?
「ずっとやさしくしていたら、いつまでたっても変化がないからです。厳しくしたらちょっとかわいそうだけれど、ヘレンのためにしたのだと思います」
「ヘレンに厳しくしないと分かってもらえないからです」
『不自由な人の役に立つことがアニーの願いでした。では、
①自分の願いを叶えたかった。
②ヘレンが将来困らないため。
③我慢や努力をヘレンに感じさせてあげたかった。
④その他
この中で選ぶとしたら、どれを選びますか?近くの人に言ってみましょう』
「私はその他です。アニーも目が不自由になった経験があり、ヘレンも目が不自由で同じ経験をしているので、治してあげたいからです。」
「その他です。アニー・サリバンの目が治った時に、喜びと感謝の気持ちを抱いたので、ヘレンにもその気持ちを味わわせてあげたいと思ったからです。」
「私は3番だと思います。ヘレンが大きくなって学校に行ったとしたら、我慢や努力を知らないと一層我儘になって困ると思うからです」
「アニーは不自由な人たちに勇気をつけてあげたいと思っているから、自分の夢を叶えたいと思っているのだと思います。だから、自分の願いのためという一番には、2番や3番、4番が入っていると思います」
『②③④の全てが一番に入っているのではないかということですね』
ここも範読を区切っての発問です。アニーの厳しさを理解させることで、発問③と同様にアニーの強い思いに気づかせることをねらいました。ある児童の発言で「喜びと感謝の気持ちを味わわせたい」というものがありました。この児童は、アニーの視点になって考えていると判断し、この時点でアニー役の演者に指名することを決めました。 |
【発問⑤】ヘレンは、この厳しさを求めていたのかな?ヘレンが望んでいないのなら、ここまで厳しくする必要はなかったのでは?
「いえ、望んでいます。なぜなら、いくら光が見えなくたって、いくら音が聞こえなくたって、いくら言葉をしゃべれなかったとしても、ヘレンにも治る確率があるし、生きる感情だってあるのだから、そういう感情を考えながらアニーは寄り添っていたと思います。」
『◯◯さんの言葉で「生きる感情」という言葉がありましたね。それがヘレンにもあるのではないか。この◯◯さんの意見、どうですか?』
「望んでいたというより、文字も何もないということは考えられないということなので、どうやって望んでいたのかな」
『ヘレンは言葉を使えません。でも、生きる感情は持っているのではないか。言葉はなくても、感情が頭の中をぐるぐる回っているのではないか。そういうことでしょうか』
ここまでが役割演技に入るまでの展開です。「生きる感情がある」と発言した児童はヘレンの心情に強く共感していると判断し、演者に選定しました。この後、いよいよ演技に入ります。 |