2022/01/07

親近性・切実性・課題性 〜命のアサガオ〜


 先日は村上敏治の著書『道徳教育の構造』で論じられている、教材の「親近性・切実性・課題性」について考えました。教材の主題を児童生徒の「課題」とするために必要な三つの視点に関して、では実際にどのように意識していけばよいのでしょうか。

 村上氏は「近いものは遠く、遠いものは近い」という表現をしています。このような感覚は日々の授業のなかで私も感じていました。では、遠いものをどのように近くすればいいのか。

 一つの授業例として、小学校6年教材「命のアサガオ」(日文)を紹介します。白血病を患った男の子の苦しみ、母親の悲しみ、必死に生きようとする両者の姿。教材を読むだけで先生方の心に強く響いてくるものがあると思います。その「響いてくるもの」を子供たちにも届けたい。しかし、どこか遠い世界のお話であると感じてしまう児童が教室にいることも現実です。

 導入で「切実性」や「課題性」を感じさせるためにはどうすればよいか。そこで、教材の一文に注目してみます。光祐くんが小さな声でつぶやいた「お母さん、ぼく・・・もうすぐ死ぬのかなぁ。」という言葉です。授業始めのシーンとした空気の中、まずこの言葉だけを厳かに紹介します。この言葉を聞いて、どのようなことを感じたかを発言させます。情報が少ないことが、子供たちの想像を広げます。語りながら、自分の思い出や大切な人を想起することでしょう。「もし自分なら」「家族はどう思うだろう」と、自分ごととして考えたり悲しみや不安に共感したりする子も出てきます。想像をさせて語らせるということは、自らの思考をつなぎ合わせることができます。思考のピースを埋めていくというイメージでしょうか。そうすることで、自分の無意識に気づかせることになります。

 このように、導入の時点で自分ごととして考えさせたうえで、教材に入っていきます。もう、子供たちは光祐くんと同じ視点で考えようとするでしょう。また、この導入で「悲しみ」についてしっかりと想像させておくことが、授業後半での精一杯生きようとする母の気持ちを理解することにもつながるといえます。  

 「導入は短く」「5分以内で」とよくいわれています。しかし、教材によっては上記のような導入を意識することが「親近性・切実性・課題性」を子供たちに感じさせられることにつながるともいえるでしょう。そして、そうすることで、主題が単なる話題ではなく、児童生徒の現在および将来に人間として生きる上での課題となり得るのです。


《引用参考文献》

村上敏治著『道徳教育の構造』(明治図書,1973)

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