「対話」の第一段階
道徳科授業での深い学びを成立させるためのキーワードの一つは「対話の成立」です。これは、型の決められた話し合いではなく、「伝えたい!」「聞かせてほしい!」という気持ちの溢れ出る対話を想像してください。
本来、子どもは自分の気持ちを聞いてほしい、存在を認めてほしいという願望を持っています。「成長する存在」として当たり前の願望です。しかし、いざ授業になると、なかなか発言できない子がいます。教室がシーンとなる場面もあります。その要因として、「発言することに意欲を感じていない」または「発言することに抵抗がある」ということが考えられます。
今回は、対話に必要な要素を、「環境」「経験」という2つの視点から考えてみます。
まず、環境です。これは、いわゆる人的環境です。学級を「学び合う集団」と見た時、教師は個別の児童生徒の困り感に対しては様々な支援を考えます。しかし、集団全体の困り感に対しての支援はいかがでしょうか。
今回のテーマでの困り感は、「つながる力の弱さ」です。インクルーシブ教育の観点から考えても、個と個のつながる力を身につけさせることが大切だとされています。これは、一人でいることの是非を問うているわけではありません。必要な時に、必要な人と関わることのできる力のことです。対話をする場面において、その瞬間に相手と関わる(つながる)ことが求めらるからです。そして、それには、信頼感や安心感が必要となるでしょう。
さて、信頼感や安心感を感じさせることが先か、対話が成立することが先か。これは、たまごが先か、ニワトリが先かという議論とも似ていますが、どちらも並行してできていくものであると考えられます。多田孝志氏は、著書「授業で育てる対話力」(教育出版)の中で、対話の機能の一つとして、話し合うことにより相互理解や相互親和を深める「人と人との関わりづくり」があると述べています。このように、対話をすることでつながりが生まれ、つながりがあるから安心感が生まれる。そして、さらに活発な対話につながっていくのです。
さて、信頼感や安心感という土台に、「経験」という視点を乗せていきます。これは、「習うより慣れろ」で考えてみます。日々の学校生活の中で、ペアで伝え合う機会をたくさん作ってはどうでしょうか。朝の会で「1分対話」を取り入れることも有効です。テーマは些細なことで大丈夫です。
「ラーメンとうどん、どちらが好き?」
「一番好きな鬼ごっこは?その理由は?」
「無人島に一つ持っていく。何がいい?」
「今、一番行きたい旅行先は?」
「自分が知っている、最も画数の多い漢字は?」
どうでしょう。本当に些細な質問です。1分対話を始めた頃は単語を伝え合うことで終わってしまうペアも多いのですが、それを続けることで相手に質問をしたり話を膨らませたりすることができていきます。みんなが考えやすいということを大切にするとともに、この活動を通して話し方や聞き方を教えて身につけさせていくのです。
よく聴いている生徒がいたら、その視線や姿勢、うなずき方、表情、素敵な点をすかさず褒めます。学年に応じて、全員の前で褒められるのが恥ずかしいようであれば、全体では「すごく聴き方の上手な子がいたよ。〜がとてもよかった。その子のペアの子は、きっと話しやすかっただろうね」と伝えるにとどめ、本人には連絡帳などでさりげなく伝えてもいいでしょう。
褒める点はいくつもあります。ジェスチャー、身の乗り出し方、体の向き、うなずき、視線、表情、声の大きさ。それらを「型」として提示しても、意識するのはごく一部の生徒だけです。そこで、活動を通して「伝え合うことに慣れさせる」とともに、「褒める(認める)」ことで話し方・聞き方を学級全体に広げていくのです。さらに、子ども達の些細な対話を教師も笑顔で聞き、おもしろさを共有することも大切になります。
もちろん、算数・数学や理科など、他の教科学習の中での対話や教え合いも大切です。キーワードを考えるなら、「いつでも、どこでも、何度でも」を意識して取り組ませるということです(もちろん、学級の実態に応じた方法や段階、タイミングをきちんと考える必要はあります)。
最後に、前述した多田氏は、「知的爆発」が起こる「深い対話」を希求し、展開していくことが、子ども達に対話型授業の醍醐味を感得させることにつながると述べています。今回紹介したことは、授業づくりというより学級づくりの視点であり、「浅い対話」の段階(もう一つ前の準備段階)となります。浅い対話からスタートさせ、やはり「深い対話」につなげさせたい。そのためには、発問や展開の工夫が必須です。そちらについても改めて考えたいと思います。
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