教材との出会い方(1)
想像してください。遠足で大きな公園へいきました。「さあ、どうぞ。遊んでおいで」と伝えると、子ども達はすぐに笑顔で走り出します。ある子は、遊具へ。ある子は、広場へ。
公園に行って、先生の指導のもとみんなで遊具を順番に回るという遠足を、私はあまり聞いたことがありません(博物館の見学などは除きますよ)。なぜなら、公園を見ただけで、子ども達はワクワクするからです。楽しいイメージが脳に浮かび、「遊びたい!」が生まれているのです。
これを道徳の授業で考えてみます。「遠足」=「授業」、「公園」=「教材」と置き換えます。
想像してください。道徳の授業が始まり、教材を読み終えました。さて、日々の授業では、次にどうしていますか。すぐに「登場人物を整理するよ。誰が出てきたかな?」と、教材の説明をはじめていないでしょうか。一問一答で、人物の名前や出来事を黒板にまとめようとしていませんか。
教材の説明をしてはいけないということではありません。ここで伝えたいことは、教材を読み終えた後の、その一瞬に注目してほしいということです。
その一瞬に、自然と話し出す子がいます。声には出さなくても、何かを伝えたいという気持ちを抱いている子がいます。まるで、公園に到着して「早く遊びたい!」と思っているかのように、「伝えたい!」という気持ちが、その瞬間に芽生えているのです。
そこで、「登場人物を整理するよ」と教師がすぐに言ってしまうと、子ども達の「伝えたい!」という気持ちの風船はすぐに萎んでいきます。自分が伝えたいと思ったことと異なることを尋ねられたからです。
教材を読み終えた後、スッと目が合う子もいます。「先生はどんなことを尋ねるのだろう」と、頭の中がグルグルと思考している状態の子です。教材を分析し、何を尋ねられるかワクワクしている状態なのです。
教材を読み終えた後の、一瞬の「間」。子ども達の様子をよく見てみると、「学びの主体意識」を感じられると思います。しかし、いつも登場人物や出来事の整理から授業を始めていると、その主体意識という風船は萎むどころか、膨らむこともやめてしまいます。もったいない!
教材との「出会い」を魅力的にしましょう。出会わせ方も大切ですが、今回は「出会った直後」も大切にしてほしいということをお伝えしたいのです。
例えば、「感想どうぞ」と尋ねるだけで、子ども達は自由に発言を始めます。「いいお話だと思いました」という子がいれば、「ちょっと僕には無理だと思いました」という子もいます。「このお話はおかしいと思います」という発言もおもしろいでね。「何がおかしいの?」「みんなはどう思った?」と、児童の発言を広げていくことで、自然とその日の「問い」が生まれてくることがあります。「そうか〜。この時の行動にみんなは興味をもったのですね。では、今日はこのことについて考えてみようか」というように進めることで、子ども達自身が考えた「問い」(テーマ)が完成します。きっと、子ども達はその後の発問に意欲を持つことでしょう。
また、教材を読み終えた時点で、子ども達は「誰の視点」で教材の世界に入っているか、感想を尋ねることで見えてきます。中心人物の視点で喜びや悲しみに共感している子。対人物の視点で価値のよさを分析している子。俯瞰した視点で、教材そのもののメッセージを感じようとしている子。まずは自由に発言を促すことで、その後の展開でそれぞれの視点を生かすこともできます。体験的な学習として役割演技などに取り組む場合は、この「視点」が大変重要となります。
教材と出会った後の一瞬の「間」のよさを、ぜひ感じてみてください。道徳科授業の新たなおもしろさと出会うことができると思います(発言を整理するという授業技能も身につきますよ)。
(学年や教材に応じて、範読後すぐに登場人物を整理することも必要です。すぐに「大きな発問」を投げかける授業も魅力的ですね。あくまで一例としてお読みいただけたら幸いです)
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