解説の、内容項目の指導の観点を読んでいくと、実際に授業で「発問」のヒントになる記述がされている。指導の観点に書かれている事柄から「発問」を考えることも効果的な方法である。
ここで、内容項目A「正直、誠実」の授業の発問を、解説の記述をもとに考えてみる。小学校低学年の指導の観点のポイントは以下の記述と捉える。
第1学年及び第2学年 この段階においては、発達的特質から、特に自分自身の言動を他者から叱られたり笑われたりすることから逃れようとする気持ちが働くことが少なくない。 |
低学年のポイントは、「他者から叱られたり笑われたりすることから逃れようとする気持ちが働く」というところになる。この気持ちの働きは中学年以上の児童・生徒にも該当すると考えられるが、低学年の指導の要点に記載されていることから、特にこの発達段階で考えさせるべき学習内容であると判断できる。
このことから補助発問を考えてみる。低学年の子供たちに上記のような特徴があるのであれば、そのことを直接問うことが有効となる。「でも、正直に言えば、怒られるかもしれないよ」と問う(思考をゆさぶる)ことで、「それでも正直に言わないといけない。だって、〜。」という発言が期待できる。この「だって、〜。」という発言の先に表現される個々人の考え方こそ、道徳的価値の深い理解につながるものになるといえる。
続いて、小学校中学年の指導の要点のポイントを考えてみる。
第3学年及び第4学年 特に他者に対してうそを言ったりごまかしたりしないことに加え、そのことが自分自身をも偽ることにつながることに気付かせることが求められる。 |
中学年は「嘘をつくと、自分自身をも偽ることになる」という内容になる。そこで、「自分自身を偽るとは、どういうことか」を教師が事前に考え、子供の言葉で表現できるようにしておくことが大事となる。また、「発問」として子供たちに直接、「自分に嘘をつくって、どういうことか」と尋ねることで、考えざるを得ない状況に子供たちを導くこともできる。
このように、同じ内容項目でも、発達段階によって、考えるべき学習内容が異なるということを理解しておくことが大切なのである。低学年も中学年も、「正直であることのすっきりさ」がキーワードとなるが、その中身は両者で異なるものであり、そのちがいの中にこそ、「発問」のヒントがあるといえる。