3年生教材「まどガラスと魚」の「発問」を考えてみる。中学年の内容項目「正直、誠実」は、「自分を偽らない」ことがキーワードとなる。それは、自分の「正直でありたいと思う心に嘘をつかない」ということであり、中心人物の千一郎の心の中の「謝りたい」という気持ちに焦点を当てることがポイントになってくる。
そこで、実際の授業では、「千一郎に、『謝ろう』という気持ちが初めからあったのか」ということを確認しておきたい。文助の「にげろ。」という声を聞き、夢中で逃げてしまった千一郎。もし、その声がなければ、千一郎はどうしていたのか。解説にも、「正直に伝えるなどして改めようとする気持ちを育むことも求められる。このことは、たとえ仲の良い仲間集団の中にあっても、周囲に安易に流されない強い心を養う要ともなる」と記載されているが、このときの千一郎は、謝りたいという気持ちはあったが、周囲に流される弱い心であったことを押さえておくことが、この後の心情の理解につながるからである。
「謝っているお姉さんの姿が、千一郎にはどのように見えたのでしょう」という発問も考えられる。「叱られなくてよかった」「ビクビクしなくてよくなった」と安心しているように見えた訳ではないだろう。「堂々としている」「かっこいい」などの意見が出ると予想される。「なぜ、そう思うのか」と尋ねることで、千一郎自身の願いに気づかせるとともに、道徳的価値のよさの深い理解をねらうことができる。
同じように、「おじいさんから返してもらったボールを見て、千一郎はどんなことを考えただろう」と発問することも考えられる。例えば、この場面で役割演技を取り入れ、千一郎役の児童がボールをどのように受け取ったのかに着目させる。両手で受け取っていたのなら、「ガラスを割ってしまったボールなのに、なぜ、そんなに大事そうに受け取ったのか」と尋ねることで、弱い心に打ち勝った喜びを実感していることや、正直でいることの快適さを自覚していることに気づかせることができる。
中学年の本教材の授業で、「謝ることが大切だ」「正直に謝ったら、気持ちが楽になる」などの理解で終えてしまうと、それは低学年の学習内容であり、子供たちにとって深い学びにつながる道徳科授業になっているとはいえない。解説の記述をもとに、「何を考えさせるか」を明確にすることで、より深い学びにつながる「発問」をつくることができるのである。
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