2022/11/07

いつわりのバイオリン


 中学校1年生教材「いつわりのバイオリン」(内容項目D「よりよく生きる喜び」)について考えてみます。

 本教材の模擬授業をした際、ロビンとフランクのどちらにも人間的な弱さがあり、その弱さに目を向けさせる必要があるという意見がありました。それでも、両者共に新たな一歩を踏み出す姿が描かれています。人間は、様々な困難や葛藤に出会いながらも、それらを乗り越え、よりよく生きようとする存在なのです。

 そこで、

 なぜ、人はよりよく生きようとするのか。

 何が、人をよりよく生きようとさせるのか。

 という発問が提案されました。

 さて、学習指導要領解説には、以下のことが書かれています。

(以下、一部抜粋)

 決して人間に絶望することなく、誰に対しても人間としてのよさを見いだしていこうとする態度が次第に育ってくる。

 指導に当たっては、まず、自分だけが弱いのではないということに気付かせることが大切である。弱さや醜さだけを強調したり、弱い自分と気高さの対比に終わったりすることなく、自分を奮い立たせることで目指す生き方や誇りある生き方に近づけるということに目を目を向けさせるようにする必要がある。

(以上)

 ここで着目したい文言は、「自分を奮い立たせることで目指す生き方や誇りある生き方に近づけることに目を向けさせる」という部分ではないでしょうか。授業後半では、ロビンの目指す生き方、フランクの誇りある生き方について考えさせることを通して、生徒自身の「生き方」を考えさせることが大事になるでしょう。

2022/11/05

特別支援学校における道徳科授業(3)


 特別支援学校及び特別支援学級における道徳科について、知的障害のない児童生徒が学ぶ特別支援学校(学級)では、道徳科の内容に示されている各学年段階の内容項目は相当する学年において全て取り上げる必要があります。

 対して、知的障害のある児童生徒が学ぶ特別支援学校では、「個々の児童又は生徒の知的障害の状態、生活年齢、学習状況及び経験等に応じて、適切に指導の重点を定め、指導内容を具体化」することが求められています。

 具体的には、各学年段階の内容項目のすべてを取り扱うのではなく、児童生徒の実態などに合わせて内容項目を適切に選択し、繰り返し扱うことにより定着を図ることを指します。教育課程取扱いの特例によって可能となる措置です。

 内容項目の選択に当たっては、個別の指導計画に記される指導目標との関連を考慮するとともに、必要に応じて下学年の内容項目を取り扱うことも意識します。

 なお、知的障害のある児童生徒が在籍する特別支援学級においても、特別支援学校の教育課程を取り扱えることから、この趣旨を踏まえることが重要になります。


《引用参考文献》

日本道徳教育学会全集編集委員会『新道徳教育全集 第4巻 中学校、高等学校、特別支援教育における新しい道徳教育』(2021,学文社)

2022/11/04

特別支援学校における道徳科授業(2)


 特別支援学校小学部・中学部の道徳科の目標、内容及び指導計画の作成と内容の取扱いについては、小学校、中学校それぞれの学習指導要領と原則として同一であるということを前述しました。また、そのうえで、①明るい生活態度と健全な人生観、②各教科等との関連を密にした経験の拡充、③指導の重点化、内容の具体化、体験的な活動の取り入れ(知的障害である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校)の3つが独自の項目として示されていることも述べました。

 さて、特別支援学校においては、児童生徒の状況等に応じて柔軟な学習活動を行う必要があります。道徳教育についても、学級活動や学校行事などの特別活動をベースにした実践や、自立活動としての実践などで、道徳科の内容項目を明確に位置づけ、道徳性を育むための具体的な手立てを工夫することが求められています。


《引用参考文献》

永田繁雄 監修 齋藤大地・水内豊和 編著『新時代を生きる力を育む 知的・発達障害のある子の道徳教育実践』(2021,ジアース教育新社)

2022/11/03

特別支援学校における道徳科授業


 特別支援学校における「特別の教科 道徳」の目標、内容及び指導計画の作成と内容の取扱などは、それぞれ小学校・中学校学習指導要領と同じように行うとされています。同様に、児童生徒一人ひとりが自分の問題として捉えられるよう、「考える道徳」「議論する道徳」への転換も図られています。これは知的障害のある児童生徒への指導においても同じになります。

 なお、特別支援学校の学習指導要領では、上記に加えて特別支援学校独自の項目として以下の3点が加えられています。

1 児童又は生徒の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服して、強く生きようとする意欲を高め、明るい生活態度を養うとともに、健全な人生観の育成を図る必要があること。


2 各教科、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動及び自立活動との関連を密にしながら、経験の拡充を図り、豊かな道徳的心情を育て、広い視野に立って道徳的判断や行動ができるように指導する必要があること。


3 知的障害者である児童又は生徒に対する教育を行う特別支援学校において、内容の指導に当たっては、個々の児童又は生徒の知的障害の状態、生活年齢、学習状況及び経験等に応じて、適切に指導の重点を定め、指導内容を具体化し、体験的な活動を取り入れるなどの工夫を行うこと。


《引用参考文献》

永田繁雄 監修 齋藤大地・水内豊和 編著『新時代を生きる力を育む 知的・発達障害のある子の道徳教育実践』(2021,ジアース教育新社)

2022/11/01

道徳科授業においての「めあて」

 道徳科授業においても、はじめに「めあて」が掲示される授業をよく見かけます。その際に考えておきたいことは、その「めあて」は、誰のために、何のために掲示するのかということです。このことについて、熊本大学大学院の前田康裕特任教授の言葉が参考になります。

(以下、引用参考文献より抜粋)

 学習指導要領では、子どもたちが身につけるべき力を「学力」とは表現せず「資質・能力」と表しました。それは、これからの時代を生きるために必要な力です。自らめあてを立て、対話によって自分の意見を外に出す。そして他者を尊重し、そこから新たに知識・技能を高めたり、思考力・判断力・表現力を伸ばしたり、学びに向かう力を育み、人間性の涵養につなげていく。

(以上)

 子供たちが「自らめあてを立てる」という経験こそ、道徳科授業で大事になるのではないかと、私は常に思っています。


《引用参考文献》

SKY株式会社『ICTを活用した学習をサポート 学校とICT』(2022年10月号)

2022/10/31

学ぶことが楽しい


 熊本大学大学院の前田康裕特任教授は、「主体的に学ぶ」ということについて、以下のように述べています。

(以下、引用参考文献より抜粋)

「主体的な学び」とは何か、ということです。この点については、学習指導要領解説(総則編)には「学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み自己の学習活動を振り返って次につなげる」と示されています。すなわち、興味や関心の対象は「学ぶこと」それ自体だということです。つまり「学ぶって楽しい」「新しいことを知るって楽しい」という気持ちです。 

(以上)

  週一回の道徳科授業を、「学ぶことが楽しい」「考えたり友達と議論したりすることが楽しい」という主体的な学びの場にしたいものです。


《引用参考文献》

SKY株式会社『ICTを活用した学習をサポート 学校とICT』(2022年10月号)

2022/10/29

相互の共感


 アダム・スミスは経済学書『国富論』(1776)の前に倫理学書『道徳感情論』(1759)を著し、その中で「人間社会を構成するものは、人々の相互に対する共感だ」と述べています。市場が健全に機能するには、その背後に人間相互の共感がなければならないというのです。

 「人間相互の共感」、まさに子供たちに身につけさせたい資質・能力であり、道徳科授業で育てるべきものであると考えます。そして、私達大人も常に意識しなければならないものでもあります。

2022/10/28

近いものが、かえって遠い


 道徳科の教材には、子供たちにとって身近な内容のものもあれば、偉人教材のように遠くに感じてしまうものもあります。日常生活にあり得る出来事が描かれている教材は、一見して授業がやりやすいように感じます。しかし、実際に授業をすると、「子供たちの心に響かなかったなぁ」と感じることが、私にはよくありました。

 村上敏治は、教材の「近い、遠い」について以下のように述べています。

(以下、引用参考文献より一部抜粋)

主題の課題性について述べた時に触れたように、資料に関しても、日常の児童生徒の生活経験に「身近なもの」ということについての関心が、教師の側に強く、それに執着する傾向が多い。「身近」なものを否定することはもちろんあり得ないが、身近な話題をもった資料が、主題のもつ課題に適合するとは限らないし、また、児童生徒の真に切実な要求に応ずることも困難であり、主題のもつ課題に応ずることも困難である場合が多く、結果として、よほど吟味精選された児童生徒の生活問題をもって埋めなければ、主題を蔽うことが難しい。近いものが、かえって遠いというゆえんである。つまりこの場合には、教師の説話その他、一応位置付けられた資料を上廻るような補助資料その他によって上積みしなければ、主題のもつ課題に肉薄していくことは困難である。

(以上)

 「近いものが、かえって遠い」という表現が秀逸です。まさに、道徳科授業の教材との距離感を的確に表現しているように感じました。

 また、村上は「資料を上廻るような補助資料その他によって積み上げなければ(後略)」とも述べています。このことは、学習指導要領解説(中学校 P105)に、

道徳科においても、主たる教材として教科用図書を使用しなければならないことは言うまでもないが、道徳教育の特性に鑑みれば、各地域に根ざした郷土資料など、多様な教材を併せて活用することが重要である。

と書かれています。

 他にも、例えば内容項目D「生命の尊さ」には、「生命倫理に関わる現代的な課題を取り上げ」と書かれています。

 子供たちとの距離が近い教材の場合、村上が述べているように、一応位置付けられた資料(多くの場合、教科書)を上廻るような補助資料その他によって上積みすることが、主題のもつ課題に肉薄できる授業づくりのポイントになるということです。


《引用参考文献》

村上敏治著『道徳教育の構造』(1973,明治図書)