2023/10/29

内容項目C「規則の尊重」


 内容項目C「規則の尊重」の指導の要点について、発達段階ごとに整理します。

 低学年では、身近な約束やきまりを取り上げ、みんなが気持ちよく安心して過ごせるためにあるということを理解させます。

 中学年では、一般的な約束や社会のきまりの意義やよさについて理解をさせるとともに、社会生活の中において守るべき公徳についても学習内容を広げていきます。その際に大事になるのが、相手や周りの人の立場についても考えさせることです。

 高学年では、基本的なマナーや礼儀作法、モラルなどの倫理観を取り上げるとともに、日常生活においての権利や義務についても考えることが求められています。

2023/10/28

道徳科授業での「めあて」


 道徳科授業で「めあて」を提示する際、例えば、「友情について考えよう」とはせず、「仲良しと親友の違いはなんだろう」など、問いの形で出すことが効果的です。

 そうすることで、中心発問の後に、補助発問として、「めあて」について問うことができます。中心発問を教材の中で考えさせて、補助発問で道徳的諸価値についての議論ができることになります。

 しかし、「めあて」について議論をすると、抽象的になってしまうことがあります。その際は、「このお話では、どういうこと?」のように、教材に返すことがポイントです。教師が教材とは異なる例を出したりすると、子供たちが混乱してしまうからです。

2023/10/27

「理解する」と「自覚する」


 道徳的価値の理解とは、「価値理解・他者理解・人間理解」だと学習指導要領解説に記載されています。さらに、この3つの理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考えることで道徳的価値の自覚を深められるとしています。自己を見つめた時に、はじめて自覚が深まるということです。要するに、「理解」とは他人事という段階であり、この「理解」に「自己を見つめる」が入ったとき、自分事にすることができるということです。

 指導案を作成する際にも、「〜を理解し」ではなく、「〜を自覚し」と記載してはいかがでしょうか。

2023/10/26

道徳的諸価値の「意義」を「意味」

 

 道徳科の指導案を読むと、「〜のよさを理解する」という文言をよく見かけます。「よさを理解」とは、その道徳的諸価値のよさ(意義)を押さえるのか、「意味」をおさえるのか、どちらを意図して使われているのでしょうか。

 一つの教材(授業)で、「よさ(意義)」と「意味」の両方を押さえることは難しいかもしれません。道徳科の授業は、一つの教材(授業)で、それらのどちらかを押さえられたらいいでしょう。全ての授業で、「よさ(意義)」と「意味」のどちらも押さえる必要はありません。

2023/10/25

5年生「うばわれた自由」[A「善悪の判断、自律、自由と責任」](2)


 本教材の登場人物ジェラール王は、「決まりを破った」のではなく、「自分の弱い心に負けた」と捉えることになります。題名が「うばわれた自由」なので、「誰に奪われたのか?」という発問も考えられます。結論を言うと、「自分に奪われた」ということになります。ジェラール王も、自分が家来を大事にしなかったから、自分の自由を奪われました

 ジェラール王は、きまりを破ったのではなく、「自分を抑えられなかった」「自分の弱い心に縛られていた」ということに、例えば板書で視覚化を図るなどして気付かせます。そうすると、「自分を抑えたら自由ではないのでは?」という疑問(補助発問)が生まれ、「本当の自由とは、自分の弱さにも縛られないもの」という、高学年の学習内容についての気付きにつながります。

 その上で、中心発問としては「ガリューに言われて、ジェラール王は何を考えたのだろう」と問うことで、子供たちは深く考えようとするのではないでしょうか。

2023/10/24

5年生「うばわれた自由」[A「善悪の判断、自律、自由と責任」](1)


 5年生教材「うばわれた自由」について考えます。内容項目は、A「善悪の判断、自律、自由と責任」です。

 さて、本教材は人物の言動が対比的に描かれており、一見すると扱いやすさを感じます。しかし、実際に授業をしてみると、どうしても、C「規則の尊重」の視点に流れてしまいます。A「善悪の判断、自律、自由と責任」に子供たちの視線を向かわせるためには、「迷惑をかけない」「決まりを守る」という方向ではなく、「自分を抑える」という方向に授業を展開する必要があります。

 なぜ、「自分を抑える」ことが「自由」なのでしょうか。自分勝手は、自由ではありません。そうだとすると、「自分勝手は、何かに縛られている」ということになります。

 では、自分勝手は、何に縛られているのでしょうか。それは、自分の弱い心(欲望)です。だからこそ、自分を抑えることが必要となるのです。

 自分をコントロールできることが、自由である。自由とは、本来何にも縛られないものです。だから、本当の自由とは、自分の弱さにも縛られないものだということができます。このことが、高学年の学習内容となります。

(古代ローマの人々は、自由を大事にしました。そのために鍛錬を重視しました。当時から、「自分に厳しくすることが、自由」だったということです。)

2023/10/17

教師が発する「例えば・・・」


 道徳科授業の途中で子供たち自身の生活経験を出させても、それぞれの生活背景が異なるので、議論になりづらいのが実情です。また、授業で考えさせたい道徳的価値は抽象的なので、そのまま道徳的価値について話し合わせても子供たちの思考はバラバラになってしまいます。

 だから、道徳科授業には「教材」があるのです。教材を使って共通の土俵を作る必要があるということです。そうしなければ、授業についてこれない子が置いていかれてしまいます。

 また、授業の途中に「例えば、〜。」という実生活での事案等を授業者が出してしまうと、それぞれの思考がバラバラに向かってしまいます。子供たちから自然と「例えば」と発言があればよいのですが、時に、「そういえば、先生はこの前に〜」と話し出す教師がいます。それは、二つ目の教材を提示していることになり、子供たちに混乱を生む要因になってしまいます。

2023/10/16

内容項目の特徴を考える


 1年生教材「二わのことり」と「かずやくんのなみだ」の授業づくりの相違点について考えます。 

 どちらの教材も、ひとりぼっち(「やまがら」「かずやくん」)が出てきます。中心人物の葛藤が描かれ、最終的にその子のもとへ向かいます(声をかけます)。教材の展開はよく似ていますが、内容項目は異なるので、授業づくりのポイントも異なります

 両教材の相違点をまとめると、以下の表のようになります。

 「二わのことり」の授業では、「なぜ、他の小鳥に声をかけずに一人で出ていったのか」という疑問が浮かびますが、内容項目Bの視点を元に考えると、みそさざいとやまがらという、個と個の関係性に焦点を当てやすい展開になっているのだと分析できます。

 逆に、「かずやくんのなみだ」では、中心人物のぼくは、ひとりぼっちであるかずやくんに声をかけるのではなく、仲間はずれをしている集団の一人であるさとしくんに「入れてあげよう」と声をかけています。これは、内容項目Cの特徴である「集団を意識」に関係しているのだと推測できます。

 このように、内容項目を意識すると、展開の似た教材であっても、授業で大事にする要素が明確になるのです。

2023/10/15

小学校1年生「かずやくんのなみだ」(日本文教出版社)


 内容項目C「公正、公平、社会正義」の教材、「かずやくんのなみだ」について考えます。学習指導要領解説(P53)を読むと、低学年の「指導の要点」をもとに、例えば、以下のような補助発問が考えられます。

 本教材では、大変悲しいことに、ぼくやさとしくんを含む学級のみんなが、かずやくんを鬼ごっこに誘っていません。走るのが遅いという偏った見方が原因で、かずやくんは仲間はずれにされています。ぼくは、自分の考え方のおかしさに気づき、かずやくんを鬼ごっこに誘います。しかし、その時点では学級のみんなはそのことに反対かもしれません。

 内容項目Cでは、集団や社会との関わりについて考えることが求められます。そこで、本教材でも、ぼくとさとしくん以外の「みんな」を登場させてはいかがでしょうか。例えば、ぼくが気づかないふりをしている場面で、「みんなも同じようにしているのだから、正しいことだよね?」と尋ねるだけで、「おかしい」という意見が引き出せそうです。また、ここで「みんな」を押さえておくことで、その後のぼくやさとしくんの発言のよさを引き立たせることができます。

2023/10/14

小学校1年生「かずやくんのなみだ」(日本文教出版社)


 内容項目C「公正、公平、社会正義」の教材、「かずやくんのなみだ」について考えます。学習指導要領解説(P53)の低学年の指導の要点に、「指導に当たって」として以下の記載があります。

偏見や差別が背景にある言動については、毅然として是正することが必要である。


公正、公平な態度に根ざした具体的な言動を取り上げて、そのよさを考えさせるようにすることが大切である。

 この2つの記述に対応する言動を本文から取り上げると、以下のようにまとめることができます。


 本教材は、中心人物である「ぼく」の心情を考える授業が多くあります。それに加えてさとしくんの言動についても取り上げることで、日々の生活の中での不合理について考えさせることができます。

 また、さとしくんは、すぐに「笑顔」でかずやくんを受け入れています。どのような、どれぐらいの笑顔だったのでしょう。その笑顔に、ぼくとさとしくんは何を感じたでしょう。さとしくんの「公正、公平な態度に根ざした具体的な言動」のよさについても考え(感じ)させることで、より深い学びになるのではないでしょうか。





2023/10/13

3年生「まどカラスと魚」と役割演技


 内容項目「正直、誠実」の教材、「まどガラスと魚」(日本文教出版社 小学校3年生)での役割演技について考えます。

 役割演技は、演技後の対話が重要です。その際、観客役の子供たちに「演技を観た感想を発表してください」と発言を促したとしても、子供たちは何を伝えたらいいのか困惑してしまいます。また、演者に同じように尋ねたとしても、深い理解につながる感想は出てきづらいでしょう。

 演技後の対話のポイントを以下のようにまとめました。

 

 例えば、教材「まどガラスと魚」で、おじいさんとのやりとりを演技させるとします。その際、ボールを受け取る場面に着目してみます。すると、演者(千一郎)は、おじいさんからボールをどのように受け取るでしょう。ここまでの展開で正直でいることの大事さを考えてきた演者(千一郎)なら、おそらく両手で大事そうに受け取ることでしょう。その姿がどのように見えたかを問うことで、価値の深い理解につなげていくことができます。

 

2023/10/12

内容項目「正直、誠実」(3)


 内容項目「正直、誠実」の授業づくりについて、学習指導要領解説の記載をもとに、小学校低学年と中学年を比べながら考えています。

 「正直でいると、すっきりする」というすっきりには、「叱られなくてよかった」「ビクビクしなくてよくなった」というすっきりが考えられます。この「すっきり」は、低学年の学習内容になります。

 中学年で考える「すっきり」は、「弱い心に負けない自分でいられた」「情けない自分にならなくてよかった」という理解が求められます。例えば、3年生教材「まどガラスと魚」のふり返りをイメージすると、以下の図のようになります。


《引用参考文献》

島恒生『納得と発見のある道徳科 「深い学び」をつくる内容項目のポイント』(2020,日本文教出版社)


2023/10/11

内容項目「正直、誠実」(2)


 内容項目「正直、誠実」の授業づくりについて、学習指導要領解説の記載をもとに、小学校低学年と中学年を比べながら考えていきます。

 

【低学年の指導の要点(抜粋)】

 

【中学年の指導の要点(抜粋)】

 

 上記のとおり、どちらの発達段階においても、「嘘をつかずに正直にいることが大切」というふり返りが想像できます。しかし、低学年は「心が暗くなる(モヤモヤする)」という学習内容であるのに対して、中学年は「嘘をつくと、自分自身をも偽ることになる」という内容になります。
 一見すると同じような文言かもしれませんが、例えば、「自分自身を偽るとは、どういうことか」を授業者が考えておくなど、これらの学習内容が示すものを明確にしておくことが、ブレのない授業づくりにつながるのではないでしょうか。

【正直、誠実の教材例(日本文教出版社)】
2年生「お月さまとコロ」、3年生「まどガラスと魚」、4年生「新次のしょうぎ」等


2023/10/10

内容項目「正直、誠実」


 内容項目「正直、誠実」の授業づくり(低学年)について考えてみます。

 学習指導要領解説では、小学校低学年の指導の要点として以下のように記載されています。

 低学年の子供たちのポイントは、「他者から叱られたり笑われたりすることから逃れようとする気持ちが働く」というところです。この気持ちの働きは中学年以上の児童・生徒にも該当するものではありますが、低学年の指導の要点に記載されていることから、特にこの発達段階で考えさせるべきポイントになると考えられます。

 さて、学習指導要領解説に書かれていることから補助発問を考えることができます。低学年の子供たちに上記のような特徴があるのであれば、そのことを直接問うことが有効です。「でも、正直に言えば、怒られるかもしれないよ」と問う(ゆさぶる)ことで、「それでも正直に言わないといけない。だって、〜。」という発言が期待されます。この「だって、〜。」という発言の先に個々人の考え方こそ、道徳的価値の深い理解につながるものになるでしょう。

 なお、中学年以降の授業でもこの補助発問は用いられますが、どの発達段階でも同じ発問(ゆさぶり)をしてしまうと、それぞれの発達段階で考えさせるべき学習内容の理解に届かなくなる恐れがあるので、今一度発問について考える必要があるかもしれません。


【正直、誠実の教材例(日本文教出版社)】

 2年生「お月さまとコロ」、3年生「まどガラスと魚」、4年生「新次のしょうぎ」等