2023/07/03

裏庭でのできごと(4)


 中学校1年生教材「裏庭でのできごと」について考えていきます。

 本教材は、内容項目「A 自主、自律、自由と責任」であり、「自律の精神を重んじ、自主的に考え、判断し、誠実に実行してその結果に責任をもつこと。」とあります。22の内容項目(中学校)の一つ目として例示されていることから、「道徳の最も基本となるもの」と主張している方もいる内容項目です。

 ここで、一つ一つの用語を学習指導要領解説をもとに説明します。

自律の精神を重んじる

他からの制御や命令を待つことなく、自分の内に自ら規律を作り、それに従って行動しようとする気持ちを大切にすること。

自主的に考え、判断する

他人の保護や干渉にとらわれずに、善悪に関わる物事などについて幾つかの選択肢の中から自分で最終的に決めること。

誠実に実行する

すがすがしい明るい心で、私利私欲を交えずに真心を込めて具体的な行為として行うこと。

その結果に責任をもつ

ある行為により生じた自分が負うべき義務を良心的に忠実に果たすことである。責任とは、ある人の行為がある事態に対して原因となっているとされる場合、生じた結果に対して応答し、対処することである。したがって、行為者にその行為をする自由があることを前提としている

 上記のことから、健二の言動について考えてみます。裏庭でサッカーをすることを誘われた健二は、「裏庭はまずいよ」と言いながらも、誘われるがままに裏庭に向かいます。割れたガラスの片付けをしようとしつつも、大輔に誘われてボール蹴りを始めます。

 健二は、裏庭に行くことを断る自由(選択肢)も、ガラスの片付けを優先する自由(選択肢)もあったはずなのに、他人の干渉にとらわれてしまい、自分の意思を尊重できませんでした。

 本教材では、「ガラスを割ったことを言うか、言わないか」に焦点が当てられている

授業をよく見かけます。しかし、本来なら裏庭に行かなければ起こらなかった出来事であり、ガラスの片付けを優先していれば2枚目を割ってしまうこともありませんでした。それらの出来事を考慮せず「ガラスを割ったこと」だけについて考えても、本内容項目の理解を充分に深められないのではないでしょうか。

 健二は、鏡を見ながら、「ガラスを割ったことを謝るか」や「大輔に何を言われるか」ということだけを考えていたのでしょうか。「どうして自分は・・・」と、「自主的に判断できない自分」や「すがすがしい心をもてない自分」についても思いを巡らせていたのではないでしょうか

 そう考えると、この場面での補助発問として、「鏡に写った自分は、どのように見えましたか」と尋ねることで、「弱々しい自分」「後悔している自分」などの発言を引き出し、逆説的に理想とする生き方を考えさせることができそうです。

 または、「鏡を見ながら考えたことは、大輔のことだけですか?」と、子供たちの発言を限定する発問をすることで、「いや、他にもあるぞ。例えば・・・、自分で正しい判断をできなかった自分について考えている」と、異なる視点での発言を引き出すこともできそうです。

 そのうえで、「裏庭に誘ったのも、ボール蹴りに誘ったのも大輔なのに、僕(健二)は一人で謝りに行かなければならないのか」とさらに問うことで、「自らの判断の責任」について気付かせる展開も考えられるでしょう。

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