2023/05/07

小学校1年生『二わのことり』を分析する


 小学校1年生の定番教材「二わのことり」の教材分析です。今回注目したいところは、教材の設定(葛藤)の一つが「やまがらの誕生日会」と「うぐいすの家で音楽会の練習」という選択になっているところです。

 まず、最近の子供たちも家庭に友達を呼んで「誕生日会」を開催しているのだろうかという小さな疑問が思い浮かびました。特にコロナ禍を過ごしてきた1年生の子供たちにとって、友達の家に行って誕生日をお祝いする(される)という喜びをどれぐらい想像できるのかを想像してみたいところです。

 また、誰も誕生日会に来てくれなかったという悲しみを、どれだけ自分のこととして捉えられるでしょうか。実際に、幼少の頃の誕生日会に誰も来てもらえなかったという経験のある教師は少ないでしょう。母親が作ってくれた大好きな唐揚げや卵焼きがたくさん乗ったテーブルを見ながら友達が来ることを待つ楽しみ。しかし、その楽しみに少しずつ不安が混じり、やがて悲しみや孤独に変わっていく過程を、どこまで想像できるものでしょうか。

 授業を参観した際に「誕生日はまた来年もあるから、音楽会の練習に行きます」という発言を聞いたこともあります。中には、誕生日をお祝いしてもらえない家庭環境の子もいるかもしれません。そう考えると、「誕生日」というものについて、導入や展開前段できちんと共通理解しておくことが大事だと考えさせられます。

 また、「音楽会の練習」についても同様です。音楽の練習を楽しいと思う子もいれば、あまり好きではない子もいます。ここでは、「みんなが行くから」という付加条件も加わります。そうであれば、「なぜみそさざいはうぐいすの家に行ったのか」という発問をした際に、様々な条件が混じってしまいそうです。

 話が長くなってしまいましたが、大事にしたいことは「教材の設定を疑ってみる」ということです。教師が「?」を抱いたところは、きっと子供たちにとっても「?」な所になるのです。その「?」に正面から向き合ってみることで、教材分析の新たな視点が見つかるものです。

 また、「前提を揃える」ということも大事になってきます。「誕生日」という一つの言葉を扱ってみても、子供たち一人ひとりがもつ意味は異なります。もちろん、道徳科では一人ひとりの「道徳的価値についての理解の違い」は大変重要ですが、その理解のための前提が異なっていると、話し合いの論点が曖昧になってしまいます。本教材であれば、「やまがらさんにとっての誕生日会」という前提(設定)を学級で揃えておいてもよいのではないでしょうか。

2022/12/25

「劇化」と「役割演技」


 上越教育大学大学院の早川裕隆は、道徳科授業における「役割演技」について以下のように解説しています。

(以下、一部抜粋)

 役割演技については、昭和33年改定の学習指導要領において、「劇化」として登場します。「劇化」について、翌年出された小学校道徳指導書(文部省)では、その形式として「脚本に従って演技するものと、脚本を用いない即興的な役割演技などがある」とし、役割演技は「およその題目と役割と場面を決めておくだけで、児童に自由に演劇させるもの」と紹介されています。その後の改定から「劇化」は「役割演技」に代わっていることから、役割演技は、「脚本に従って演技するもの」とは違うと考えられます。

(以上)

 過去の学習指導要領からも、役割演技には「即興性」が求められていることがわかります。しかし、指導案に「役割演技」と記載されていても、実際に授業を参観すると教科書に記載されている発言を追っていたりワークシートに書いたものを読ませたりしている姿をよく見かけます。そのような活動は役割演技としては不十分であるという自覚のもと、授業者は子供たちの「即興性」を引き出すために、発問や授業展開を工夫したり、学級の雰囲気作りに取り組んだりしていくことが必要だと考えます。


《引用参考文献》

『道徳教育 2022年12月号』(明治図書,2022)

2022/12/22

道徳科授業と自尊感情(はしのうえのおおかみ)  


 教科調査官の浅見氏は、自己有用感(自尊感情と同意としている)を高める道徳科授業について、1年生「はしのうえのおおかみ」を例に以下のように述べています。

(以下、一部抜粋)

 低学年での定番教材「はしのうえのおおかみ」は、Bの視点「親切、思いやり」を手掛かりとした教材として用いられることが一般的です。小学校低学年の段階であれば、最終的には、身近にいる人たちに対して、相手のことを考えて優しく接することができるような心を養うことが求められます。

 相手は親切にされてどう思ったのか、「自己有用感」を高めるためには、おおかみと重ねた子ども自身の気持ちや考えを問うだけでなく、橋を渡してもらったうさぎの気持ちを確かめることも必要になるはずです。その後、おおかみと重ねた自分の気持ちも確かめていきます。

(以上)

 親切にした相手がうれしい気持ちになったことを理解するということは、嬉しさという「感情の共有体験」になるのではないでしょうか。自らが選択(よりよい行動と判断)した行為によって、喜びを共有する体験ができるということも道徳科授業の魅力であり、自尊感情を育むための大切な手立てになりそうです。そして、この手立ては、例えば役割演技を取り入れることでより効果的ではないかと考えます。


 《引用参考文献》

『道徳教育 2022年12月号』(明治図書,2022)

道徳科授業と自尊感情(4)


 心理学者の近藤卓は、基本的自尊感情を高めるためには「共有体験」が大事になると述べています。「共有体験」とは「感情と体験の共有」を指し、4つの構成因子からなるとしています。


友人因子

友人たちとの意見の一致や、目が合うといった体験

交流深化因子

友人たちと同じであるだけでなく、一緒につらいことを悲しんだり乗り越えたりと、ネガティブ感情についても共有できたと感じる体験

家族生活因子

家族と一緒に過ごす時間

日常生活因子

日常で関わる人たちと交流する体験


 基本的自尊感情は、上記の因子からなる「共有体験」の繰り返しによって、和紙を重ねていくように少しずつ育まれていくものだと近藤は述べています。道徳科授業においても、対話を通して意見が一致(不一致)する体験や、友だちとの交流で目が合うといった体験を重ねることで、子ども達の基本的自尊感情を高めることができるのではないでしょうか。

《参考引用文献》

近藤卓『基本的自尊感情を育てるいのちの教育』(2014,金子書房)


2022/12/21

道徳科授業と自尊感情(3)


 心理学者の近藤卓は、自尊感情を「社会的自尊感情」と「基本的自尊感情」からなるものと定義しています。

 

近藤は、他者と比べて優れているとか、何かできることがあるといった場合に高まる「社会的自尊感情」ではなく、あるがままの自分自身を受け入れ、良いところも悪いところも、長所も短所もあわせ持った「基本的自尊感情」こそが、自尊感情の基盤を支える大切な感情だと述べています。


《参考引用文献》

近藤卓『基本的自尊感情を育てるいのちの教育』(2014,金子書房)


2022/12/20

道徳科授業と自尊感情(2)


 ローゼンバーグが定めた自尊感情の尺度は、国内外で広く用いられています。

 以下、それぞれの項目について、①強くそう思う、②そう思う、③そう思わない、④強くそう思わない、のいずれかで回答してください。

 

 1. 私は、自分自身にだいたい満足している。

 2. 時々、自分はまったくダメだと思うことがある。

 3. 私には、けっこう長所があると感じている。

 4. 私は、他の大半の人と同じくらいに物事がこなせる。

 5. 私には誇れるものが大してないと感じる。

 6. 時々、自分は役に立たないと強く感じることがある。

 7. 自分は少なくとも他の人と同じくらい価値のある人間だと感じる。

 8. 自分のことをもう少し尊敬できたらいいと思う。

 9. よく、私は落ちこぼれだと思ってしまう。

 10. 私は、自分のことを前向きに考えている。

 

「強くそう思う」=4点、「そう思う」=3点、「そう思わない」=2点、「強くそう思わない」=1点で点数化(質問項目2, 5, 6, 8, 9については、 「強くそう思う」=1点、「そう思う」=2点、「そう思わない」=3点、「強くそう思わない」=4点)。

出所:Rosenberg, M. (1965) Society and the adolescent self-image. Princeton, NJ: Princeton University Press:

 

 道徳科授業を通して「自尊感情を高める」という目標を掲げる場合の具体的な手立てとして、このローゼンバーグの尺度を用いて実際に子ども達の現状を把握し、一定期間後に再度測定することで変化を視覚化するという取組も考えられます。


2022/12/19

道徳科授業と自尊感情


 「子ども達の自尊感情を高めたい」という声をよく聞きます。研究会の提案の中でも自尊感情についての記載がよく見られます。

 ところで、「自尊感情とは何か?どうやったら高められるのか?」と尋ねられたら、私たち教師は明確に答えることができるでしょうか。言葉の定義が不明瞭のまま「自尊感情」という言葉を使うことで学びの目標や手段を曖昧にしてしまってはいないでしょうか。

 「自尊感情」という言葉は、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズが下図のように定義しました。

 

 また、ローゼンバーグは、『自尊感情』を「自分に対する自己評価感情」と定義し、10の質問項目で数値化することができると述べています。さらに、自尊感情には二つの側面があることを指摘し、「他者との比較から優越感を得られる感情」と「他者との比較でなく、ありのままの自分に対する肯定的感情」とに分けています。


《参考引用文献》

近藤卓『基本的自尊感情を育てるいのちの教育』(2014,金子書房)

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