2024/05/29

2年生「およげないりすさん」(4)

 本教材は、場面前半では泳げないりすさんがお願いをしても島へ連れていってもらえない場面が描かれていて、場面後半は「いっしょに島へ行こうよ」「僕の背中に乗りなさいよ」と島へ誘ってもらう場面が描かれています。

 場面前半で「僕もいっしょに連れていってね」と言ったけれど断れたりすさん。その時に悲しく感じたことでしょう。翌日に「いっしょに行こう」と言われても、すぐに納得できるものでしょうか

 そこで、例えば「今日『も』ぼくは泳げないよ。昨日は連れていってくれなかったのに、今日はどうして誘ってくれるの?」という補助発問はどうでしょうか。りすは変わっていないけれど、かめ・白鳥・あひるの心情が変容したことを『も』という助詞を用いることで気づかせます。そのうえで、「3人の方がたくさん遊べるのに、なぜ今日は誘ってくれるの?」「3人より4人で遊ぶことのよさは?」と問い返すこともよいでしょう。

2024/03/05

道徳科における「めあて」について


 道徳科授業における「めあて」について考えます。

 道徳科でも、他教科と同様に「めあて」を立てる学校が全国的に多くなってきました。従来の「めあて」は、例えば「友情について考えよう」という提案型の「めあて」でした。しかし、これから求められるのは、「仲良しと親友の違いはなんだろう」というような疑問型のめあてだと言われています

 さて、「めあて」があれば「ふり返り」も必要です。道徳科授業では、どの場面で「めあて」についてふり返ればよいのでしょうか。

 めあてに戻ってふり返るさせるタイミングは終末場面ではありません。「めあて」は終末のふり返りで迫る(深める)ものではなく、考え議論することによって迫る(深める)ものとして捉えましょう。終末の場面で「めあてに戻って感想を書きましょう」としては、考え議論する授業として成立していないということです。

 加えて、中心発問で価値理解が深まらなければ、めあてに戻って考えさせても効果はありません。中心発問で深まったからこそ、補助発問でめあてに戻すことに意味が生まれるのです。

2024/03/04

小学校6年生教材「言葉のおくり物」(3)

 

 本教材では、「一郎」「すみ子」「たかし」の3名が主要な登場人物になります(信夫や、学級のみんなも登場します)。複数の人物が登場する教材ですが、誰に焦点を当てて授業を作ればよいでしょうか。

 例えば、多面的・多角的な思考を促すために3名それぞれの思いを捉えさせる展開が考えられます。また、考え議論する授業づくりのために、「人物(思考)の対比」として、「すみ子」と「一郎」の思考を対比させる展開も有効かもしれません。

 さて、ここで着目したいのは中心人物である「一郎」です。実は、一郎の中にも「たかし」や「みんな」と共通する思いがあります。たかしと同じように「男女仲良しはおかしい」という思いがあるから、たかしの方に安易に流されたといえるからです。

 そこで、「前半の一郎」と「後半の一郎」を対比させることによって、周りを気にして友達のよさを見ていない一郎の思考を深く考えさせることも、本教材の授業づくりにおいて効果的な手立てになります。


2024/03/02

小学校6年生教材「言葉のおくり物」(2)


 高学年のB「友情、信頼」の内容の中に「異性についての理解」が入っていますが、あくまでも「友情、信頼」を意識して授業をつくるほうがよいと前回お伝えしました。

 実際に指導案を考える(授業を行う)際にも、例えばねらいを「男女仲良く」で留めるのではなく、「学び合って友情を深める」ことについての理解を深めることが大事になるでしょう。

 解説の「指導の要点」にも、

協力して学び合う活動を通して互いに磨き合い、高め合うような、真の友情を育てる

と記載されています。その意味で、例えば、指導案のねらいの文言を「男女関係なく仲良くできる」等ではなく、「男女仲良く相談できる」にすることも考えられます。「相談できる」ということは、「学び合える」「磨き合える」関係であるということだからです。

 教材に目を落としてみても、中心人物である「一郎」は、異性である「すみ子」に何も相談できず、人間関係を壊してしまいそうになります。なぜ、一郎はすみ子に相談をできなかったのでしょうか。実際の授業でも、その一郎の思いに焦点を当てるということです。

2024/03/01

小学校6年生教材「言葉のおくり物」(1)


 小学校6年生教材「言葉のおくり物」(日本文教出版社)の授業づくりについて考えます。本教材の内容項目は、B「友情信頼」。高学年の内容は以下の通りです。

友達と互いに信頼し、学び合って友情を深め、異性についても理解しながら、人間関係を築いていくこと。

 本内容項目では、小学校高学年と中学校で「異性理解」に関しての記述があります(小学校高学年においては、平成20年告示の学習指導要領解説では「男女仲よく協力し助け合う」だったものが、平成29年告示の現行学習指導要領解説では「異性についても理解しながら、人間関係を築いていく」と変更されています)。

 さて、高学年の内容として「異性理解」が明記されているので、本教材の授業も「異性理解」に重きをおいて行うべきなのでしょうか。この疑問に対する解は、「否」とお答えします。「異性理解」と明記されていますが、それは学習内容の一部であり、あくまでも「友情、信頼」の授業と捉えてよいでしょう。「異性理解」を入り口として、広く、深く、「友情、信頼」の理解につなげていくということです。

 また、近年は「多様な性」への理解が進んでいますので、「男」「女」を明確に区別して授業を行うことに対しても不安を感じてしまいます。次回の学習指導要領の改定の際に、この「異性理解」の記述がどのように変わるのかも注目しておきたいところです。

2024/02/29

あなたたち、すごいね


 今求められている道徳科授業の在り方について、畿央大学の島恒生氏は以下のように述べています。

(以下、参考引用文献から一部抜粋)

これまでの授業は、教師が授業の最後に「わかった?」と確認する授業だったのではないでしょうか。教師が丁寧に説明し、わからせる伝達型の授業です。一方、今、求められている授業は、教師から「あなたたち、すごいね!」の言葉が出る授業といえるでしょう。「あなたたち」ということは、協働的な学びがあったということです。「すごいね」ということは、「深い学び」を児童生徒の力でつかむことができたということです。

(以上)

 このような「あなたたち、すごいね!」という授業を行うためには、「教師の視線の向き」と「発言量」、そして「間(ま)」が重要になるようです。教師の柔らかな視線が児童生徒に向き、教師の発言量を少なくする。そして、ときにはわからないふりをし、「間」をとって児童生徒の思考や発言を促す。このような姿勢が教師に求められているということです。


《参考引用文献》

『道徳教育 2024年3月号』(2024、明治図書出版)

2024/02/23

発言を引き出す目的


 中心発問の場面で、子供たちから教師の思い描く発言が出てこないことがあります。公開授業を拝見していると、発言を引き出そうと教師が言葉を変えて何度も尋ねている姿が散見されます。しかし、同じようなことを尋ねられる子供たちは、教師の思いとは逆に、教師が何を求めているかがわからず、考える意欲を失いがちです。

 さて、子供たちから補助発問につながる発言が出なかった場合、どうすればよいのでしょう。そのときの状況にもよりますが、無理に子供たちから引き出そうとせず、「例えば、こんな考え方もあるかもしいれないけれど、どう思う?」というように、授業者が提示してもよいでしょう。大事なことは、補助発問につながる発言を引き出すのではなく、その発言(考え方)について対話を通して深めることだからです。

2024/02/22

学び方を身につける


 道徳科の授業を受ける子供たちの姿に目を向けます。小学校1年生と中学校3年生の姿を比べると、どのような成長を見ることができるでしょうかどのような力が身についているでしょうか

 さて、学年・校種が変わっても、道徳科の授業が教師の発問に対して答えるだけのものになってはいないでしょうか。常に一問一答で授業が進み、子供たちは発問を「与えられる」だけの立場に甘んじていないでしょうか。

 道徳科の「見方・考え方」は、平成28年の中央教育審議会答申で次のように示されています。

【道徳科の「見方・考え方」】

 様々な事象を、道徳的諸価値の理解を基に自己との関わりで(広い視野から)多面的・多角的に捉え、自己の(人間としての)生き方について考えること。

 このことから、道徳科の授業の積み重ねを通して、「多面的・多角的に考えようとする」「自分との関わりで考えようとする」という力を身につけさせていくという意識を教師がもつ必要があるでしょう。

 さて、上記の力を養うための具体的な方法として、例えば、「他の立場から考えてみるとどうかな?」のように、「考え方」を教師が提示し、その思考方法のおもしろさを子供たちに繰り返し感じさせることが考えられます。また、「もし私だったら・・・」と発言した子がいたら、「すごいね。自分のこととして考えてみたのだね」と価値づけすることも大事になります。

 これらは、数ある授業技術の一つではありますが、なにより、一問一答型の授業ではなく、子供たちが「う〜ん」と考えたくなる魅力的な発問を通して、「考えるっておもしろいでしょ」というメッセージを発信していくことが、子供たちの「見方・考え方」を育む最も効果的な方法になるのではないでしょうか。


《参考引用文献》

『道徳教育 2024.2月号 P70-72』(明示図書出版)